Shin Yamagata

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11月27日
久しぶりに会った知り合いの夫婦のそれぞれの両親も来ていたから計七人だった。一人は三歳の女の子。その女の子の両親と、おじいちゃんとおばあちゃんとおじいちゃんとおばあちゃん。女の子はピンクの衣装を着せられてとっことっこと手を引かれて歩いている。靴を脱いで神社の建物の中へ入った。頭を下げているあいだに鈴が鳴らされた。神社でよく見かけるたくさんの鈴が付いたあれだ。目をつむっている頭の向こうでその鈴が力強く鳴らされている。そんなに力強く鳴らすのか、と最初思った。そしてたぶん左右に大きく振っている。その音が頭の中でぐわんぐわんと変に響いてふわんふわんと音が動いている。なるほど、と思った。この鈴にも祝詞と同じようなトランス効果がある。しゃんしゃんと弱く鳴らしていてはこのトランス効果は得られない。この神社はその

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6月23日
印画紙に焼いたモノクロ写真を見て、黒がしまってていいですねえ~、という人がいる。そういう動画を最近見た。その人は写真なんて見ていない。印画紙の黒の出方を見てそれを褒めている。しかし、黒がしまっているとかしまっていないとか、いったい写真の何に関係しているのだろうか、そのことを何ら明らかにせず、ただ黒がしまっていることを褒める行為は、いったいなんなのか? なんとなく、わたしはモノクロ写真に精通してます、というような気配を漂わせたいと思っている人の

雰囲気がでることをわかっている人も、そんなことを言われて写真も見れないくせに通ぶりやがって、と思う人も結局は同じ穴の狢で、それは同じ世界の住人の話であって、ほとんどの人には何の関係もない。周りの人たちからそういうしらじらとした視線で眺められることに無自覚だ、ということの方がよほどの問題である。村社会の典型、といえ

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9月1日
自転車の空気を入れた。予約していた本が届いたとメールが来ていたのを思い出し、夕方、図書館へ出かけた。途中の神社で小さなお祭りをやっていた。前を通るとおばあさんがこちらをじっと見てきた。こちらもじっとおばあさんを見た。すれ違うときにおばあさんが「こんばんは」とにこっと笑った。こんばんは、こちらもにこっと頭を下げた。図書館で本を借りて外へ出ると、降りそうだった雨が降りはじめていた。すぐに大粒の土砂降りに変わった。傘はある。神社の前を通るとみんな慌てている様子でその中からおばあさんを見つけ出そうと目を凝らした。松の木の脇にいるのは小さな子供を抱えたお母さん、テントの下ではおじさんたちが

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7月13日
玄関を出ると隣の奥さんもちょうど玄関を出たところだった。お互い少し驚きながらも、暑いですね、と挨拶を交わし、奥さんと一緒に階段を降りて行く。奥さんの手には自転車の空気入れがあるから自転車置き場まで一緒に行くことになる。旦那さんは元気ですか、と声をかける。その一言でしばらく会話が続き、自転車置き場まで、それなりに気まずくはあるけれど、なんとなく会話が途切れることなく到着することができた。ここで空気入れてると蚊に食われますから気を付けてくださいね、と言って自転車にまたがり、先に自転車置き場を出た。ほっとしたところで財布を忘れてきたことに気が付いた。戻ればまた自転車置き場で奥さんと顔を合わすことになる。合わせる顔なんてない。あるけど、ない。どうしようか、と考え、

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8月15日
久しぶりに打ち上げ花火を見た。花火は球体に爆発しているはずなのに、眼球は二つあって立体視できるはずなのに、二次元の薄っぺらい平面にどうしても見えてしまう。だけど、ときどき火の粉と火の粉の間にある空間が奥行きのある空間として感じられる花火があり、その花火を見たときの、空間に包まれるような、というのか、火花が覆い被さってくるような、というのか、立体として膨らんでいく感じ、というのか、とにかく上空にこの世のものとは違う別の空間が現れ

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11月23日
みなとみらい駅は思った以上に遠かった。隣の県まで来たのだからちょっとした旅行だと言えなくもないが、なんとなく東京のままな気がしている。駅を降りて外に出ないまま屋根のある通路を通って建物に入った。横浜っぽい風景を見ることもなかった。横浜っぽいってどういうことだかわからない。そういうことを言われたような気がするから言ってみただけだ。だからやっぱりここは東京でいいのかもしれない。ここでいうところの東京というのもあやふやなもので、多摩地域ではない、きっと23区というか、山手線周辺というか、その辺りなのかもしれない、だいたい、みんなが「東京」と言ったときにどんな場所をイメージしているのかわからない、誰かに聞いたこともない。ソファーに腰を下ろした。はじめて会う、とにかくよく喋る男がずっと喋り続けている。わたしは聞いていない。もう一人の男がずっとそのよく喋る男の対応をしている。ちょっと荷物みといてください、といって席を離れ、エスカレーターを上っていく。一階まで上って建物の外へ出た。観覧車が見えた。観覧車に時計が付いている。9:32。この観覧車は横浜らしいのか。きっとそうなのだろう。でも、ここは葛西臨海公園ではない。