Shin Yamagata

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3月9日
昨日も晴れて今日も晴れて、そして、昨日よりもあたたかい。自転車の進路を南に向ける。地下鉄の線路をまたぎ、環七の信号を越えて商店街に突入する。昼間から酔っぱらったじーさんがこちらに向かって何か叫んできた。きっと自転車に乗ったわたしが邪魔だったのだろう。春の陽気だから、あははははは、と笑ってやり過ごす。小さな子供が乗った自転車がうねうねと蛇行している。わたしとぶつかりそうになって、その子の親が大声で叱りつけるのだけど、あははははは、とまた笑ってやり過ごす。古本屋に到着。「阿房列車」と「百」を手に入れ、そのまま二階の喫茶店に入る。買った本は開かずに持ってきた「愛の矢車草」を開く。隣の椅子の背もたれに窓から入った光が細く射し込んでいる。そこにカメラを向ける。あはははは、コーヒーが運ばれてきた。

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8月5日
ちょっと足首が、と思って、ん? 痛い? と思って、見たらアブが足首を齧っていた。救急車とすれ違う。少し先に事故現場。ああ、ここのカーブか。白い乗用車の運転席側が凹んでいる。中央線を割って対向車とぶつかったのだろう。このカーブは緩そうにみえるのだけど、少し曲がるとぐぐぐっとさらに曲がっていくカーブでスピードを出していると曲がりきれなくて危ない。今日は日曜日。(カーブで中央線を割って走ってくる車の運転手があぶな! みたいな顔をしてハンドルを切っていくのだけど、危ない運転をしているのはそっちで、あぶな! みたいな顔をしたいのはあんたやなくてわしで、ほんとうは、わざわざUターンまでして

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3月31日
午前中少し晴れ間が出る。気温が低く太陽の光が射す中を歩いていてもダウンを脱げない。東京ではほぼ満開らしいが、しだれ桜が咲きはじめたくらいでまだこちらの桜はつぼみだ。もう少し山を下ればちらほら咲きはじめてはいる。光は春だ。草も生えてきている。白や黄色の小さな花も咲いているし、ミツバチもときどき見かける。下って上る。小川を覗き込めば小さな魚が慌てて石の影に消えていく。風が冷たい。草の上に座ってぼんやりするには寒すぎる。三脚を握る手が冷たい。坂を下る。春という感じ

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6月12日
帰りは雨かと覚悟していたのだけど、降っていない。出かける前は本を読んでいた。久しぶりに、いわゆる、エンタメ、と呼ばれる小説を手に取った。何がいったいエンタメなのか、という問いを意識しつつ読み進める。だけど、読んでいるうちに物語の展開にのめり込んでしまい、何がエンタメなのかという問いが消えている。なるほど、これがエンタメの力か、とは思わない。いわゆる、純文学、と呼ばれる小説を読んでいてもそうなってしまうからだ。わたしは読書が下手なのだろうか、それとも猛烈にうまいのだろうか。写真を見るときはどうだろうかと考える。小説を読むときとは明らかに違って、分析してしまっている。何が写っているのかはもちろん、光を見て構図を見て写真の歴史まで持ち出して見てしまうこともあるし、写っているものが呼び込みうる社会的な意味を網羅しようとまでしてしまう。こんな風にしか写真を見ることができないのはやっぱり不幸なのだろうか、きっと不幸だ。しかし、希望がある。わたしはもの忘れがひどい。近年ますますひどくなっている。以前と比べれば、何かがすっぽりと抜け落ちた状態で写真を見ることができるようになっている気がしないでもない。一周回っていろんなことがどうでもよくなって忘れてしまって、そして、そのことは撮影することにも影

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11月27日
久しぶりに会った知り合いの夫婦のそれぞれの両親も来ていたから計七人だった。一人は三歳の女の子。その女の子の両親と、おじいちゃんとおばあちゃんとおじいちゃんとおばあちゃん。女の子はピンクの衣装を着せられてとっことっこと手を引かれて歩いている。靴を脱いで神社の建物の中へ入った。頭を下げているあいだに鈴が鳴らされた。神社でよく見かけるたくさんの鈴が付いたあれだ。目をつむっている頭の向こうでその鈴が力強く鳴らされている。そんなに力強く鳴らすのか、と最初思った。そしてたぶん左右に大きく振っている。その音が頭の中でぐわんぐわんと変に響いてふわんふわんと音が動いている。なるほど、と思った。この鈴にも祝詞と同じようなトランス効果がある。しゃんしゃんと弱く鳴らしていてはこのトランス効果は得られない。この神社はその