Shin Yamagata

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5月30日
ベトナム料理屋に到着すると、一人しか来ていなかった。二人で席につき近況を話し合っていると、別の二人がやって来た。そのうちの一人は一度しか会ったことがない女の人だった。最初に話していた人とその女の人が誰かの話をしはじめたのだけど、その誰かがわからない。下の名前で呼びあっているから親しい人かと思えばそうではない。あとで聞くとユーチューバーだった。その二人はユーチューバーの話ができるのはこの人だけだとお互い思っているから、会ってすぐにその話をしはじめた。わたしは何の話かわからないままぽかんと聞いているし、女の人と一緒に来た男もぽかんとしている。テラス席だから外に背の高いビルが見えている。いろんな会社が入り込んだビルではなくて、そのビル全部が一つの会社らしい。青い光に縁取られたそのビルはニューヨークの

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3月3日
東京マラソンらしい。入ったインドカレー屋のテレビから、マラソン時の救急処置についてどうのこうのといったワイドショー的な番組が流れていた。夜から雨だという昨日の天気予報が外れて、朝からずっと雨が降っていた。もう夕方の4時を過ぎていた。図書館に届いた本を受け取りにいき、その足で宅急便を受け取り、芋の入ったパンが食べたくなって隣の駅の手前にあるパン屋まで傘をさして歩き、晩御飯を作るのが面倒になったから持ち帰りのカレーを頼んで店内で待っていた。持ち帰りのカレーは500円。インドかネパールか、そっち方面の出身らしい店員が出してくれたラッシーを飲みながらテレビを見ている。ラッシーが甘くておいしい。おかわりが欲しい。お客はわたし以外に誰もいなかった。店の奥で

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5月3日
車窓からの風景を眺めていると、こんなところに! という場所に三脚をたてて列車を狙うカメラマンの一団を発見する。数人がかたまって畑の斜面の上に陣取っていたり、友人と二人で脚立にのぼって柵越しにカメラを向けていたり、草をかき分け単独でここぞという場所を探して重そうなカメラを担いで歩いている人など、様々な人たちが列車を狙って様々な場所へと入り込んでいる。「撮り鉄」と呼ばれている人たちが撮ろうとしている写真にあまり興味はないが、いい場所を探して歩く姿は、釣り人と共通するものがあり、諦めずに奥へ奥へと歩いていく姿はいつ見ても清々しい。日曜日の誰もいない造船所の中へ入りたかった。入れば、造船所のなにかしらの施設と対岸にある別の造船所のクレーンが同じ画面に収まるはずだった。造船所の門は閉ざされ、周囲は塀で取り囲まれている。ぐるっと歩くと何箇所か塀を乗り越えられそうなところがあった。わたしは迷っていた。

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10月9日
太陽が沈んでいく。赤みの残る空が隣を歩く男の顔を赤く染めていた。赤い顔は、夕日のせいばかりではなかった。男は怒っていた。穏やかに怒っていた男の怒りが頂点に達しようとしていた。ちょっと待ってくれ、と言って、空き地に生えている紫蘇の種を採るのに手間取ってもたもたしている男を、わたしが、ついきつい口調で、早くして、と急かしてしまったのが事の発端だった。男は、近所に生えている紫蘇の種を採って住んでいるところの裏の空き地に蒔いておくのだ、と夏前の紫蘇が芽生えはじめた頃からずっと言っていた。そのことを知っていたにも関わらず、ついきつい口調で言ってしまったのには理由がある。わたしの友達と一緒にその男がご飯を食べたときだった。友達が深刻な話をしているというのに、その男は

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8月29日
夕方になって急に日が射してきた。しまっていたカメラを取り出し、何枚か撮っていると電源が落ちた。あれっと思ってカメラの背面を見ると、カラの電池マークが点滅している。電池が切れた。曇っているし、どうせそんなに撮らないだろうと思って充電してこなかったからこういうことになる。予備の電池も持っていない。しばらく放っておけばまた電源が入り、あと一枚か二枚は撮れることはわかっていた。カメラを持って歩きはじめた。少し先の木にカメラを向けたくなる。だけど、これでいいのかと思ってしまう。もっと別の何かがこの先にあるかもしれない。そんなことを考えはじめると、この先何も撮れないんじゃないかと思って、やっぱりここでシャッターを押しておこうと思うのだけど、やっぱりここではない気がする。そうこうしているうちに撮るタイミングを失い、撮りたい欲求も消え、木はただの平凡な木に戻ってしまった。この先、

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1月4日
正月休みが終わって今日から営業をはじめたいつもいく店には、まだほとんど野菜が入荷していなくてかまぼこや伊達巻きや小さな鏡餅などの正月前に売れ残ったものがたくさん並んでいた。何も買わずに駅前のドトールをのぞくと、レジに列ができているのが見え、店の混み具合は確認しないままコーヒーを飲むことを諦めた。駅の反対側の喫茶店まで行こうかとも思ったのだけど、なんとなく駅の階段をのぼっていくのが億劫で引き返す。逆光で眩しいのだけど陽射しがあたたかいから陽に当たりながら来た道を戻る。向かいから歩いてくる人の顔がまぶしくてみえない、目を細め、真正面から陽の光を浴びる

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6月29日
インクをセットして蓋を閉じるとセットしたインク以外が検出されずにまた点滅する。また蓋を開けて点滅していたインクを外して入れ直す。蓋をするとまた別のインクが検出されずに点滅する、の繰り返しを50回以上繰り返し、そのことに発狂している声が部屋の隅で聞こえている。こちらではパソコンにSDカードを挿入して写真を見た後に、SDカードをカメラに戻したらカメラがカードに反応しなくなったと騒いでいる。どうしたらいいんですかと言うから、とにかくカードの中のデータはまだ生きてるんだから、ひとまずパソコンかUSBにでもデータを移しておけばいいんじゃないかというのだけど、SDカードを指差して、USBがどうだこうだと言いながら、最終的にはあんたが何を言っているのかわからないと責められ、他の人の写真をゆっくり見ていられる状況ではなくなってきたから、一番年少の