Shin Yamagata

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11月2日
個人タクシーの会社と言うと語義矛盾のような気がするけど、個人タクシーの人たちが寄り集まって作ったらしい会社らしきものが潰れた。潰れたというのは倒産したとかそういうことではなくて、物理的に破壊された。三階建くらいの建物だったのだろうか、今となっては思い出せないのだけど、事務所的な建物とトタンに囲まれた古くさい駐車場の両方が更地になった。まだデコボコとコンクリートの塊が残り、重機も3台入っている。駐車場もあったからか、更地になると、思った以上の広さがあって、その横と奥へと向かう広がりに驚く。そこを囲んでいるシートの隙間から写真を数枚撮る。晴れていて順光でくっきりとした風景だけど、写真はそれほどおもしろくない気がした。年末になると、毎年、この駐車場で餅つきをしていた。高齢の運転手が多いのか、集まった人の頭は白かったり毛がなかったりで、昼間からお酒を飲んでパイプ椅子に座って楽しそうに

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6月29日
畑のトウモロコシがすっかり膨らんでいる。その畑の角を右に曲がると車がひっきりなしに走っている街道に突き当たる。旧街道はさらに北側へ入ったところに今も残り、駅と駅をつなぐ長い商店街として賑わっている。街道へ出る手前の路地に、休んでいるのか朝の準備をしているのか、何をしているのかはわからないけど、毎朝必ずバイク便のおにいさんがいた。そのバイク便のおにいさんが今日はいない。バイクもない。よしこはランドセルの横にぶら下がっている小さな袋に手を突っ込み、赤くて小さなものを取り出した。バイク便のお兄さんがいつもいる場所に立ったよしこは、

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4月21日
蒲郡のバイパスを降りて給油し、次のコンビニで休憩する。ここまで230キロくらいか。コンビニに入ってくる人の中には半袖の人もいるのだけど、わたしはダウンの下にまだ4枚服を来ている。朝に冷えた体はあたたまっていない。今、外気が何度なのかはわからないのだけど、目に入る情報から暑そうだというのはわかる。だけど、その暑さを体が感じてない。風を冷たく感じている。ずっと寒い。アイスコーヒーを買っている人の横でホットコーヒーを買う。グローブをしているのに指先も冷えている。その冷えた指にホットコーヒーの

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8月29日
知っていて見てはいたけどずっと行っていなかった。そこはいつも撮影を終えた帰り道に見かけていて、それはいつも夕方で、もう山の影に入っていて、ああ、これじゃあ撮影できないな、と思って見上げて通り過ぎていた。遠かった。県境にある集落で、いつも行く撮影のコースに組み込まれずにずっと外れていた。車が走ることができる道路が集落内にきちんと張り巡らされているのが白いガードレールの存在で遠目からでもわかり、なんとなく整備されすぎた魅力のない集落のように感じていた。でもそんなのは足を一歩踏み入れば覆されることもよくあることだから、食わず嫌いはよくない、いつかはいかなければならない、ずっとそう思っていた。だけどその集落を目指していくとなると、1日でその集落ひとつだけ、ということになりかねなかった。それは嫌だった。でも、今日こそ、そこへ行く日なのではないかと思ってしまった。雲は多いけどなんとか晴れ間があるし、予報では雨も降りそうになかった。

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5月22日
ブロックの豚バラ肉を手頃な大きさに切り、出た油をこまめに拭き取りながらそれぞれの面にこんがりと焼き色がつくまで鍋の中で焼く。白ワインを加え、玉ねぎとにんにく、塩、近くの畑の脇に雑草のようにはえていたタイム、ローリエの葉を加え弱火で煮込んでいく。煮込んでいる間に、室温に戻しておいた豚のフィレ肉を二センチくらいの厚さに切っていく。バターを熱したフライパンにフィレ肉を並べ焼き色がついたら裏返す。フライパンから取り出しアルミホイルに包んで余熱で中まで火を通していく。下ゆでしたインゲン豆とブロッコリー

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8月24日
ダムのすぐ下流にある柿の葉寿司屋に入ると、カウンターの奥でおばさんが青々とした柿の葉を束ねて整理しているのが見えた。冬の間の柿の葉はどうするんですか? と聞いてみると、うちは冬の間は閉めますねん、秋になったらこれですわ、と見せてくれた写真には、紅葉した柿の葉で包まれた柿の葉寿司が箱詰めされていた。冬に売っているのは塩漬けした柿の葉で包まれたもの、機械で包むものは夏でもすべて塩漬けされた葉(葉がやわらかくなる)で包まれていること、手で包まれたものと機械で包まれたものはここで見分けがつくことなどを教えてくれた。それから雑誌を持ってきて、こないだ取材されました、とページを開いてくれる。おばさんたちがはしごにのぼって柿の葉を取っている写真も掲載されていた。自分らで取るんですか? いや、これは取材用でして、普段は甥が取ってますねん、おばさんは声を出して笑い、裏の山

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10月24日
今日は買い物をしたはずで、何を買ったのかを思い出そうとしているのだけど、今、思い出した。豆腐とか大根とかその程度のものだった。もっと、いつも買わないものを買った気がしていたのだけど、それは気のせいというか、あれを買いたいと思っていたものが、いや、でも、それはどうでもよかった。本を読んでいた。名前は知っているけれどじっくりと読んだことのない作家の小説だった。最初の数行を読んで、もういいやと思ってやめた。そのこともどうでもよかった。そんなことではなかった。今日はカメラを持って出なかった。そういう日が多いのは最近晴れていないからで、昨日は10日ぶりに晴れたというのに、今日はまた雨が降って、明日は大雨だということだ。写真展の案内が届いても行きたいと思う展示がなく、結局、他人が撮影した写真への興味をほとんど失い、それは、もちろんそれらの写真がおもしろいと思えないからで、そのおもしろいと思えないわたしが問題なのか、おもしろくない写真が問題なのか、そんなこともどうでもよかった。昨夜作ったトマト缶と煮込んだ