Shin Yamagata

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10月6日
天気予報通り気温が下がった。これでようやく夏も終わったのかと思うのだけど、2日後がまた30℃を超える予報になっている。いつまで夏は続くのか。降っていた雨がやんだから外へ出た。ゴム草履で出て来たのだけど、今日は少し足元が寒く感じる。濡れた地面の水滴が跳ね上がり、そこに含まれていた砂が足の裏に入ってしまった。小さな公園の水道をひねって足を洗い流した。水が冷たくて、その冷たさがまったく気持ちよくない。やっぱり夏は終わった、と思いたい。砂を蹴り上げないようにそろりそろりと歩いて公園を出てスーパーに入った。饅頭を買って出て、八百屋へ向かった。信号を渡った先の商店街は人でごった返していた。まだ入ったことのない餃子屋の店内の時計をかがみこんでドア越しに見ると、まもなく11時で、餃子屋は

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9月9日
すべてがそうだとは思わないけれど、女だけの職場というのは想像以上におぞましい、そういう話を帰りの電車の中でその女から聞いていた。根も葉もない噂が、それは噂というレベルを飛び越えて明らかな嘘だというのに、あっちからそっちへ、こっちからあんなとこまで、職場のあらゆるところ、職場外にまで飛び出していた。休日には電話も掛かってきた。あなた、こんなこと言ってたんだって? つまり、誰かが誰かを妬んで憎んで陥れようとして嘘をついていた。あなたが以前働いていた職場にもすぐバレる嘘をつく男と女がいた。自身の立場を利用したやりかたであなたを陥れようとした。周りの人間は、全てが嘘だとわかっていても、お金と自身の立場を守るためにそれらの嘘に目をつむった。いつのまにか電車が随分下ったらしく、耳が聞こえにくくなっていた。あくびが出ないからいつまでもその女の話が遠くから聞こえていた。女は仕事を辞めた理由を

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12月11日
夜に住宅街を歩いていると、暗闇の中から花の甘い香りが漂ってきた。どこからだろうとあたりを見回すのだけどわからない。見上げると、塀を越え出た背の高い木の枝の先に白いものが見えた。びわの木だった。花を鼻に引き寄せて香りを確認したいのだけど、花にまで手が届かない。手が届かないのだから、このにおいがびわの花だとは言い切れなかった。庭の奥で別の花が咲いているかもしれない。庭の奥に目をこらした。暗闇と窓から漏れる明かりが見えるだけだった。去年も同じようなことをした気がした。去年はどこの木だったのだろうか、この木ではなかったはずだ、白くぼんやりと浮かび上がる花を眺めながら判然としない記憶の

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8月11日
朝から車が多い。お盆の帰省がはじまったのかもしれない。10台以上連なった車列に追いついたからもうあきらめて前の車についていく。カーブが多くなると途端にスピードが落ちていく。ここでいらいらしたりすると事故につながるから気をつける。対向車にバイクがくると手を振ることにした。ぴょこんとお辞儀する人、同じように手を振る人、敬礼のようなポーズをする人、気付かない人、今日はツーリングの人も多く、何台も連なったバイク集団ともすれ違う。この人たちはおそらく和歌山の新宮あたりからぐんぐんここまで上ってきたのだろう。わたしは海まで下らない。ヘルメットにカメラを付けている人がずいぶん増えた。そのカメラに、原付に乗ったわたしの手を振る姿が映っているはずだから、そのうちにyoutubeとかに

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3月9日
雨が降っても雪が降ってもずっと干してあった毛布が春の風でとうとう二階のベランダから落ちた。何ヶ月もずっと干していたくらいだから落ちたところで拾ったりするわけがなかった。落ちたことには気づいているだろう。落ちているのは自転車置き場のすぐ近くで、その部屋の住人は毎日自転車に乗って出かけるからだ。数日後、丸まって土にまみれた毛布を見かねたのか、下に住む一階の住人がその毛布を拾ってゴミ袋に詰めて二階の住人の自転車のカゴに押し込んだ。ここから事件がはじまったわけではなかった。こちらが知らなかっただけで、すでに事件ははじまっていた。そもそも二階の住人はその集合住宅のルールを破りまくっていた。ゴミの出し方はめちゃくちゃだし、私物を共有地にばら撒くように置いていたし、それに、

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1月22日
ハーフカメラのオリンパスペンにはカラーフィルムしか詰めたことがなかったのだけど、年末にモノクロフィルムを詰めて撮影した。そのフィルム現像をした。冬のフィルム現像は現像液の温度が下がるのでナーバスになるのだけど、今回はかなり適当だ。現像、停止、定着。定着液から出してQWに入れる前に、できたてのネガを蛍光灯にかざしてみる。少し薄いけど、まずまずだ。縦長の小さなコマがずらりと並んでいる。カラーネガでしか見たことがなかったから新鮮で、はじめて現像したときほどの感動はないにしても、なんとなくあのときの感動が漂った、気がした。水が冷たいから水洗時間を長くしたいのだけど、タイムリミットが迫っている。乾燥させてフィルムを切ってネガケースに収めるまでの時間を考えると、水洗は15分が限界か。水洗促進剤に入れているとはいえ、