Shin Yamagata

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8月3日
久しぶりに池袋のジュンク堂に行った。写真集が並んでいる最上階にまずは向かう、ということをしていたのは数年前までだった。最近は最上階までいかないこともある。すでに死んでしまった人たちが撮った写真を見ていればそれで十分だった。ジュンク堂エスカレーターから見下ろすことのできる交差点に向かって毎回カメラを向けるのだけど、今日はあまり高い階まで上がらなかったから写真は撮らない。ジュンク堂に着くまでに20枚は撮っていた。高いビルのある街は日の当たる場所が限られているからいつも同じ場所でシャッターを押した。目当ての本を買ってジュンク堂を出て西武百貨店沿いに歩いていく。ずっと日陰で、交差点でちらっと日が射しているからそこでシャッターを押す。前もここで押した。そこからはカメラの電源を落として歩いた。パルコを過ぎてビックカメラの裏側へ入っていくと日が射してくる。カメラの電源を入れて細長い公園

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2月11日
裏通りに入っても人が多かった。店頭に文旦が並んでいる。めずらしいなと思って眺めていると隣におじさんが立った。前掛けをしているから店のおじさんだった。文旦おいしいですよ、と言われたから、久しぶりに見ました、と答えた。文旦の隣には「山北のみかん」と書かれたみかんが並んでいる。これは高知県のですか? と聞くとおじさんが店の看板を指さした。「高知屋」と書かれていた。そこから高知県の話がはじまった。店で働いている人も高知大学に行っていた人だし、ここのオーナーがどうでこうで、それでおじさんも高知県出身なんですかと聞くと、おじさんは広島県の出身だった。文旦を持って店に入った。高知県の土産物屋でよく見るかつお

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3月3日
地下に下ってまたすぐ地上に出る道があった。下りきった場所の真上の地上部分に、磨りガラスに囲まれた喫煙スペースがあって、そこだけが屋根のように地下道の上を覆っていた。地下へ下っていくときにその場所を見上げると、タバコを吸っている人たちの姿が逆光のせいで磨りガラスに影絵のように映っている。下った先の上っていく道には細い光が射し込んでいて、その光の中に入った人もシルエットになる。ここを写真に撮ればインスタでよく見るありきたりのよくできた写真になる。立ち止まってカメラを構えた。画面の上に磨りガラスに映るシルエットが四つ、画面の下には光の中でシルエットになった小さな人影が一つ、画面は上下に分割されて、地下道の空間が画面の中にもう一つのフレームをつくり出している。映える写真が一丁仕上がった。こんな写真をわざわざ撮って、こういう写真を撮りたい人の心情を

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4月22日
ヘアピンカーブに仕掛けられていた檻の罠に猪が入っていた。大きいのと小さいの、親子だ。近づくと子が親のうしろに隠れて、親は飛び上がって檻に前足をかけてブヒーとほえた。親には茶色いたてがみがあって、もののけ姫の小さくバカになった猪たちを思い出した。このあとこの親子は殺される。坂を上っていくとおばあさんが話しかけてきた。猪見た? 見ました。少し前に家の裏に出てきた親子らしく、捕まらんかなー思てたら捕まりました、とにこにこうれしそうに色々話してくれる。このあと役場の人とかが来てジビエになりますわー、ととにかくうれしそうにしていて、

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1月11日
東京よりは二三度低いのかもしれなかった。寒かった。前に来たときに立ち寄った団子やおにぎりが売っている店が閉まっていたから駅前のコンビニで飲み物だけを買った。リュックにパンは入っていた。駅前の商店街を歩いて行く。うなぎ屋は覚えていた。大きなうなぎの絵が描いてあった。前はここで写真を撮った記憶があるのだけど、そのときと何かが変わってしまったのか、それともこちらが変わってしまったのか、まったく撮る気にならなかった。うなぎ屋の向かいの廃業して荒れた店の中をガラス越しに撮影した。前もこうなら撮っていたと思うのだけど、撮った記憶はなかった。その先、細い路地に一歩踏入って振り返ったところでシャッターを押した。シャッターを押してから、前もここで撮ったような気がしたのだけど、