Shin Yamagata

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原宿




仕事を2時間だけして、というか仕事というよりはほとんど見学というか、それもまったく緊張感を欠いた状態だったので2時間後もまだまだ元気が残っていて、だからそのまま原宿の人ごみへ紛れ込み、スーツを着たまま新しいカメラで写真を撮っていた。本当はその後まだ4時間くらいは仕事を続けようと思えば続けることもできたけど、晴れているし、別にもういなくてもいいような感じだったから、もう帰る、と言って現場を離れてしまっていた。
カップルの女の方が連れの男に向かってこっちを見ながらヒソヒソと耳打ちをした後、その連れの男が振り返ってこちらを見た。女もこちらをまた見ていた。
しばらく原宿をウロウロしてからそのまま歩いて写真を撮りながら新宿へ移動し、新宿へ着いたのは3時半から4時の間くらいだろうか、もうすっかり夕方の光になっていたし、曇りがちになっていたので、撮影をやめてジュンク堂書店へ向かった。ジュンク堂書店柴崎友香フェアの棚は前よりもにぎやかになっていた。
柴崎さんの知り合いであるだろう他の小説家の人たちがその本棚に色んな言葉を寄せていて、その本棚は本屋さんの本棚という感じがしなくなってきていて、それはある種の違和感を感じさせる本棚になってきていて、そういうのはなんとなく心地よかった。そして柴崎さんの周辺の小説家達はみんな仲良しなんだなあと自分の周りの写真家達のことが頭の上を過ぎっていった。
それから写真集が置いてある本棚でパラパラと写真集を眺めていた。目を引いたのは清野賀子さんの写真(http://www.osiris.co.jp/egs.html)。前に一度本屋で見かけていいなあと思っていたけど、衝動買いはよくないと思ってもう少し様子を見てからと思っていたけど、改めて見てやっぱりよかったから買おうと決めた。写真集を手にとってレジへ向かって歩き出したけど、すぐに足を止め、元の本棚へ戻り写真集を元の場所へ戻した。ズボンの右後ろのポケットにギュウギュウに入っていた財布を取り出して中身を確認したら2000円と少ししか入っていなかった。やっぱり足らん、、と思い、あきらめ、他の写真集とかを眺めていたら、トントンと肩を叩かれた。
振り向くと緑のエプロンをしたジュンク堂書店のSさんが「どうも」と言うので「どうも、どうも」と答えると、「すぐにレジにいかなきゃならないんで、、」と言って、スタスタスタと視界から消えていった。「なんでスーツなんか着ているんですか?」という一言もなかったのでなんだかさみしく思った。
それからジュンク堂書店を出て駅へ向かって券売機で切符を買おうとした時、家に帰るために原宿から電車に乗るのと新宿から電車に乗るのでは10円しか違わないことが、実際に歩いて立ち止まり右の角を曲がり次は左へ曲がり、山手線の線路の下をくぐったり埼京線の踏切を渡ったり、雲が増えてきたと思ったり、美人とすれ違ったりしながら写真を撮ってきたことが、切符を買うという行為においては10円の差でしかないということにクラクラと途方もないものを感じてしまいそうになるのだったが、それはウソで、そんなことは歩き始めた時からわかっていたことであった。
山手線は比較的空いていて座ることができたけど、目の前に座っているのはヤンキーっぽいちょっとこわいめの人だったので目を合わせないようにしながら池袋までの時間を過ごした。