Shin Yamagata

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テナント





数人の見慣れない背中を見ながら歩いていた。見慣れた女の横顔が見えているのが唯一の救いだった。見慣れない背中の中の二人が「テナント募集中」と看板が出ているビルの玄関を入ってエレベーターの前でキョロキョロと周りを見ながら何かを話している間、私を含めた残りの数人は固まってそのビルの前で立ち止まっていた。見慣れない背中の中の一人の男に私は話しかけた。話している間にビルから出てきた二人がまた歩き始めたので、それに引きずられるようにみんなが歩き始めた時には見慣れた女はもう横顔ではなく背中を見せていて、そのまま見慣れない横顔の男と話しながらさらに先へと歩いていた。頭上には高速道路があり頭の上から車の走る音が聞こえ続けている。見慣れた女に追いつこうとすることは見慣れない数人の中に入っていくことになり、それよりはこの見慣れない横顔の男と話しているほうがまだましだと考え、その男と話しを続けていた。「この人うるさいんですけど」とその見慣れない横顔の男が前を歩いている見慣れない背中の数人と見慣れた女に向かって言葉を発した。「うるさくはないんです」と私は小さな声を発した。しかし誰も振り向くことはなく目的地のレストランに向かって歩いていた。