Shin Yamagata

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よたよた歩いているおじいさんを見ていた。おじいさんは立ち止まり、頭の上に咲いている桜をちらっと見上げてまたよたよた歩き始めた。おじいさんは杖をついていた。そこは上り坂だった。おじいさんが桜の木を見上げたときに何かを思った。それはあまりにも漠然としていて何を思ったのかもう思い出すこともできない。
坂を下って歩いていた。坂を下ったところには昔、川が流れているところがあった。そのことは知っている。川がどちらに向かって流れていたのかは知らない。しかし上流に向かって歩き始める。上流とは北西だった。太陽に向かっては歩かない。
ずっと向こうに桜が咲いているのが見える。桜が咲いていなければあんなにずっと向こうを意識することはなかっただろうと思う。桜が咲けば桜にばかり目がいくのは事実だった。でも、それは間違いだった。桜は単なる契機に過ぎなかった。桜が咲いていることによって桜以外のところが実は見えているのだと知る。それは普段見ることのない瞬間であり、場所なのであった。しかしそれさえも誤りのような気がした。だがそれ以上の言葉は浮かんでこない。桜は青い葉を出し始めている。蝶がたくさん飛んでいる。