Shin Yamagata

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外へ出たとき、まだうっすらと明るかった。うっすらと見える街の様子はさっきまで暗室で見ていた夏の日差しに照らされている風景とあまりにも違い過ぎた。このうっすらと見えている、全体的に薄い紫色になっている見慣れたこの場所が一瞬何かわからなくなるような感覚があった。プリントをしていた写真の強い日差しの光景が目の前に見えたように思えた。道の脇には名前のわからない紫色の花がたくさん咲いている。昨日はここに蝶が飛んでいた。あっと思って部屋へ引き返す。部屋の中にも紫色の光がわずかに入ってきている。ついさっき部屋にいたときにもこんな光だったのかどうかはわからない。机の上に長いこと置かれたままになっているリンゴはそろそろ食べた方がいいかもしれない。リンゴの横にはルーペがあった。ついでにマフラーを巻いて外へ出た。さっきと同じ道を歩いているのに紫の花はもう目に付くことはなかった。かわりにその先にある暗くてあまりよく見えない桜の木を見ていた。近づくとようやく花の一つ一つが見えてくる。大きな通りへ出ると車はもうライトを点けて走っていた。信号は赤だった。