Shin Yamagata

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行列




前回
閉所恐怖症ではなかった。でもそのときは閉所恐怖症だったのかもしれなかった。立ち上がり、どこかへ歩いていきたかった。それはどこでもよかった。とにかく電車の外へ出たいと思っていた。体の内側から熱くなってきているようだったし、お腹も痛かった。空気も薄くなってきているように感じていた。足を組み、お腹の前で腕を組んだ。斜め前に座っている女を見た。女もこちらを少し見た。その女の横に座っている男を見た。男はうつむいて携帯電話をいじっていた。窓の外では踏み切りの赤いランプが点滅し続けている。目をつむって寝ようとしたけど、少しも眠くはなかった。目を開け、周りを見ながら耳をすませていた。
一番前の車両はホームにさしかかっておりそこからなら降りることが出来る、と車内放送があった。なぜ、何十分も経ってからそんなことを言い出すのかと思った。窓を開けるようにだとか、パンタグラフを下ろしただとか、そんなことを言う前にまずそのことを先に言うべきではなかったのかと思っていた。車内放送があった瞬間に車内の空気が揺れた。何人かの人たちが立ち上がり、先頭の車両へ移動し始めていた。後ろの車両から人がどんどん歩いてくるのをしばらく眺めてから立ち上がった。行列に混じり歩いていると、その行列はすぐに止まって進まなくなった。止まるな、行け、早く出たいんだ、と思いながら、隣の人としゃべったり、携帯電話をいじりながら座席に座っている人たちを見ていた。電車の中は空席が目立つようになってきていた。もっと早くに立ち上がるべきだった。外にあるはずである公衆電話も人が並んでいるかもしれない。行列はまた少しずつ動き始める。
つづく