Shin Yamagata

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灰色




前回
一つ先の車両で何かの気配が見えた。窓の外を熱心に見ている何人かが見えている。その車両に入ると右側の窓にくすんだ緑色の硬い布で出来たようなシートが外側から貼り付けてあり、貼り付けられていないその隣の窓には数人が張り付いて外を見ていた。隣の線路には電車の顔が見え、池袋行きの急行電車だということがわかる。ここで人身事故が起こっていた。おそらく乗っている電車ではなく、隣の池袋行きの電車が人身事故を起こしていた。レスキュー隊の人たちがいるのも見える。ホームには人だかりが出来ている。それを見ながら出口を目指していた。
電車の外は蒸し暑かった。自殺だろうか、事故だろうかと思いながら人だかりが出来ている方向とは逆の方向にある出口に向かって、公衆電話のことを気にしていた。改札口は人で混み合っていた。駅員と話しこんでいる人や、もらった地図を眺めている人、携帯電話で話している人、座り込んでいる人、その向こう側の改札口を出たところに誰も使っていない灰色の公衆電話が見えた。目の前に停車している消防車の赤い車体と赤い光とその光に照らされている道路や建物を見ながらテレホンカードを電話に差し込んだ。電話はつながった。用件を手短に話し、それから今のこの状態のことを話した。飲み会の席での話もした。電話の相手は今日見た夢の話をしていた。改札口のすぐ横にある踏み切りは閉まり続けていた。
拡声器から出る駅員の声が聞こえた。それは電話の相手にも聞こえていた。窓に貼り付けてあったくすんだ緑色の布を目隠しのために広げ、壁を作っていた。救助された人が改札口の向こう側まで運び出されてきているようだった。駅員は拡声器を使い、道をあけるように指示をしている。今、目の前を通っている、と電話の相手に伝える。緑色の壁の隙間から布でグルグルに巻かれている人らしきものが見えた。そばに二人救急隊員のような人がいたけど、その人たちはしゃべりもしないし、体も動かしていないようで、ただ毛布にグルグルに巻かれている人のそばにいるだけのようだった。けが人なのか死体なのかさえわからなかった。
つづく