Shin Yamagata

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電車




駅に到着した電車が出発しないと思っていたら人身事故だと車内放送があった。この重たい荷物さえなければここでこの電車を降りて歩いて帰ることができるのにと思っていた。歩けばたぶん一時間以内で着くはずだった。その時間とこの電車が止まっている時間を頭の中で何回も比べていた。実際、電車がどのくらいの時間この駅に停車しているのかは誰にもわかってはいなかった。そんなことはわかっていた。それでも歩いて帰る時間とこの電車が止まっている時間を頭の中で比較することをしばらくの間やめることができなかった。同時に、こんなことを考えている時間があるなら電車を降りて歩き出した方がいいのかもしれないとも思っていた。それでも立ち上がることはせずに頭の中で時間を比べることしか出来ないでいた。どういう状況か確認中です、というような車内放送が何回も繰り返されていて、いい加減に繰り返しすぎだと苛立ってきていた。何か状況の進展があってから新たに放送をすればいいと心の中で思いつつ、もしかしたら乗客のイライラを抑えるために何分ごとに放送をするようにというマニュアルがあるのかもしれないと思ったり、もしあったとしても同じ内容を何回も繰り返せば結局このようにイライラとして心の中で車掌に文句を言うことになってしまうのだと思っているそばから、電車外のホームの方からもまったく同じ内容の放送が聞こえてきていた。鉄道会社の業務マニュアルなんて考える必要はないのだと思い直したりしていた。あとは家に帰るだけだから急ぐ必要はなかった。まだ夜の7時過ぎだったし寝るまでにも十分に時間はあった。それでも気持ちは早く家に帰りたがっていた。何の予定もないにもかかわらず、あの何もない、晩御飯の用意もされていない、お風呂も沸いていない、掃除もされていないあの部屋へ気持ちだけは急いでいるようだった。車内放送があってすぐに車内の一割ほどの人が電車を降りたような気がする。混みあっていた車内はもう立っている人がまばらになり、向こうの車両までが見えるくらいになっていた。目の前に座っている女はひざの上にかばんを二つ乗せている。かばんは二つより一つの方がいいに決まっている。そんなことをもう何回も思っているような気がしていた。