Shin Yamagata

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吸盤




古い一軒家の玄関の横に置かれたバケツの中に水が入っていて、そこに水草が浮かんでいるのが見えたのでメダカでも飼っているのかと思って覗き込んだら、急に頭の中で何かがいっぺんに入れ替わってしまって、田んぼ、おたまじゃくしの卵、イモリ、田んぼの中の泥を握ると指の間からニュ〜と出てくる、あぜ道が崩れやすい、オケラ、稲の匂い、真っ赤なザリガニとピンク色のザリガニ、用水路の岩と岩の隙間、水カマキリの細さ、アマガエルの指の先の吸盤、ゲンゴロウが足音に反応して水に潜るときの足の動かし方、とか、田んぼにまつわることで頭の中がいっぱいになって、それはこの暖かさとか、この時期木から発せられる若い緑の匂いとか、さっき座っていたベンチの後ろにあったツツジの花にフワフワ飛んでいたアゲハチョウがストンと落ちるように吸い込まれたのを見たとか、そういうなんやかやが重なって、今いるのがどこなのか一瞬わからなくなるというか、子どもの頃の感覚に満たされるとか、とにかく、あ〜と、思って、この時期の田んぼに水が入って、その水の中にいろんな生き物があらわれ始めるのが楽しみだったとか、何かいたら捕まえてやろうと田んぼのあぜ道を水の中を覗きながら歩きまわる、歩きまわりたい、けど、この辺に田んぼは一切ない、だから田んぼを見に行きたい、けど、今は無理。