Shin Yamagata

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くま




予定の時間はかなり過ぎていた。テーブルの真ん中に置かれていたお菓子は食べつくされ、それでもまだ食べたいと隣に座っていた女が言うものだから、休憩時間になってトイレに出たり名刺を交換したりして賑やかになっている会場をくるっと一周まわってみると、一切お菓子に手を付けていないテーブルがひとつあり、まばらに席が空いたテーブルに座っているグレーのスーツを着たわたしより十歳くらい若い男に、このお菓子もらっていいですか?というと、どうぞどうぞ、と手のひらを差し出し笑顔を向けてくるので遠慮せずにそのテーブルに載ったお菓子の三分の二を掬い上げ、じゃあ遠慮なくと言って自分が座っていたテーブルに戻ると、ほんとにとってきたんですか?と言いながらお菓子を食べ始める女の目の下にはくまが広がっていた。