Shin Yamagata

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運転手の自宅の車庫の前で運転手の父親と話している男はついさっき集落のバス停から少し離れた場所にある橋のたもとでバスを降りた男だということに運転手は気付いた。そして男がバス停ではなくバス停のない橋のたもとで降りたのはその男の意志ではなく運転手の好意だった。
運転手はバスに乗ってきたカメラを持った見知らぬ男の乗客に「神社まで行くのか?」と聞いた。その辺りで観光するようなところはその神社くらいしかないからだ。男は「神社のまだ少し先まで。」と答え、窓の下に見える川に目を戻した。川が冷たそうに見えるのは葉の落ちた木々の隙間から川が見えるからだった。男はそのまま川を眺め続けていたが車内アナウンスのあと自然と腕が上がり「つぎとまります」と書かれたボタンを押していた。運転手はなぜ男が次で降りるのかわからなかったが、少し先の対岸にある観音堂に行きたいのかもしれないと思い、「観音堂まで行くのか?」と男に聞いた。男がミラー越しにうんと頷くのが見えたから運転手はそれならばとバス停を通り越して観音堂へ向かうための橋のたもとでその男を降ろしたのだった。しかし男はそこに観音堂があることさえ知ってはいなかった。運転手に聞かれたことに適当に頷いたのだ。それは耳に入れていたイヤフォンから大きな音で音楽が流れていたからだ。