Shin Yamagata

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7月28日




フェリーを降りて和歌山港から原付で奈良へ向かっていた。まもなく19時で暗くなりはじめている。交差点ごとに警官が2〜3名立っている。交差点なんていくらでもあるからものすごい数の警官が動員されている。腕章を見ると兵庫県警という文字もある。人が足らないのか?信号を操作するつもりだろうか、祭りか、パレードかと思っていると歩道を日の丸の小さな旗を持った人が歩いているのが目に入る、天皇か?そのうちに反対車線の歩道に人の塊が現れる。小さな日の丸の旗を持った老若男女がどっさり。そういう人の塊が数百メートルに一度現れる。ここは日本なのか、異国にきた気分になってくる、この人たちは誰かを待っている、片側二車線の国道沿いの日本のどこにでもあるチェーン店がずらずら並んでいる通り、ほんとにこんな風景どこにでもあってうんざり、にどこからこんなに人が集まってくるのか。全員車道に顔を向けて前列の人はしゃがんでその後ろは中腰でと3列くらいになっている。みんな行儀がいい。やっぱりここは日本か。赤いのをくるくるまわしているパトカーとすれ違った。そろそろくるのか、またパトカーとすれ違う。次こそ来るのか、反対車線の向こう側に白バイ二台が併走しているのが見えた。暗い中で赤いのがはげしくくるくるしている。その後ろが天皇か?わたしはすかさず右車線に入る、近くで見てみよう。前方の車がスピードを落とす。わたしもスピードを落とす、対向車線の白バイもゆっくり走っている。ちょうど人の塊があり、全員わぁーという感じだ。白バイのすぐ後ろの黒塗りの車の中の照明が点灯していて中に一人で乗っている皇太子がぱっと明るく見えた。皇太子!歩道に集まっている人たちに笑顔で手を振っている。あっという間にすれ違った。前の車がスピードを上げた。わたしもスピードを上げた。あー。今まですれ違ってきた人の塊に皇太子はこれからその都度笑顔で手を振るんだな、と思うだけで、あー。芸能人がいてきゃーってのとは違って、人があんな風に国道脇の歩道に団子のようになって行儀良く手を振ったり日の丸を振ったりしてわぁー。こんなところで皇太子とすれ違うとは。この田舎の風景の中に皇太子がいることがメディアによって流される皇太子のイメージとすごくずれている。あの四角く区切られたフレームの中でしか見たことのなかった皇太子が紀ノ川に沿っている国道を車に乗って海の方へ移動している、その皇太子、テレビや写真の皇太子じゃなくて、あの皇太子、笑顔で手を振ってる。和歌山の海の先は四国だった。少し進むと反対車線の歩道に人がばらばらと散らばって歩いているのが見える。もう手を振り終わった人たちだ、薄暗い中に散らばる人々、何かの残骸か。