Shin Yamagata

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2月9日
長野重一さんが亡くなったというニュースを見た(https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190208-00000226-kyodonews-cul)。長野さんはわたしの写真をおもしろがってくれた。初めての個展は長野さんや秋山亮二さんが審査員をしていたコンペだった。今はなくなってしまったコニカミノルタフォトプレミオだ。受かったと連絡が来てコニカミノルタプラザに行ったときには秋山さんがむかえてくれた。長野さんはそこにいなかった。右も左もわからないわたしにカメラ雑誌に売り込みに行けばいいと、秋山さんはカメラ雑誌の編集長の名前や電話番号を教えてくれた。その場でだったか、別の機会だったか、秋山さんと長野さんの写真について話したことがあった。ここだといういい場所を見つけるとそこでじっと待つんだよ、待ってると必ずいい具合に人が入ってくる、そんなことを長野さんが言ってたと、秋山さんが教えてくれたのを覚えている。個展がはじまると、散々だった。わたしの隣のギャラリーは木村伊兵衛賞受賞作が展示されていた。東京の風景を窓から撮影した写真だ。もう一方の隣は猫の写真が展示されていた。二つの写真展に挟まれたわたしのスペースだけがいつも人がガラガラだった。入ってすぐに出ていく人がたくさんいた。汚ねえとこ撮ってんじゃねえよ、といきなりおじさんに怒鳴られたりもした。それでもときどき時間をかけて写真を見てくれる人がいた。長野さんもそうだった。わたしは長野さんに会ったことがなかった。長野さんの顔は色々な雑誌や本で見て知ってはいたし、長野さんの写真も好きで、長野さんの写真を知った頃は長野さんを真似て撮ったりもしていた。わたしがそのとき展示していた写真は、長野さんの写真の背景を東京から地方にかえて、人物を入れないようにして撮影した写真、とも言えそうな写真だった。これはその当時はそうは思っていなかった。今そう思った。そんな長野さんがふらっとギャラリーに入って来た。わたしは長野さんに頭を下げたのかどうか、もう覚えていない。長野さんが写真を見ている後ろ姿は今でもよく覚えている。すんとした立ち姿で、一枚の写真をじっくり見てくれる。そして、つつと横に移動して立ち止まり、また一枚の写真をじっくり見てくれる。その長野さんの後ろ姿をじっと眺める。一枚の写真を見るのにそんなに時間を掛けてくれるのか! と思ったこともよく覚えている。それだけでわたしはうれしくてうれしくて満たされた気持ちになっていた。いつ声をかけていいのだろうかと思いながら、写真を眺める長野さんの後ろ姿をずっと見ていた。写真を見終わった長野さんが近くに来てくれた。そして感想などを言ってくれた。わたしはとにかく緊張していた。そこで長野さんが言ってくれた言葉がある。その言葉はここには書かない。その言葉があったからわたしは写真を続けることができた。その言葉をときどき思い出して、その言葉に励まされてきた。これからも様々な局面でその言葉がわたしを励ましてくれる。長野さんには感謝しかないです。本当にありがとうございました。