Shin Yamagata

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10月19日
夜の九時を過ぎていた。すでにホームに停車していた電車に乗り込み、空いている席に腰を下ろした。目の前の席が一つあいていた。始発駅で出発までにまだ少し時間がある。電車に乗り込んできた女の人がその席に座ろうとしてやめた。座席に茶色くて小さなものが落ちている。お菓子の食いカスか何かだろうか。次に乗り込んできた全身黒い洋服の色白の女の人は座席を見ずに座ろうとした。空いた席の隣に座っていたおばさんが、待って、と声をかけて、ティッシュを取り出し、かすかに聞こえた声から蛾だと推測される茶色のそれを包み、どうぞ、と色白の女の人をうながした。ありがとうございます、と色白の女の人がおばさんの隣に腰を下ろした。色白の女の人はカバンをごそごそとしはじめ、こういうの召し上がります? と言ったかどうかは聞こえなかったけど、そのような感じでおばさんにお菓子の包みを差し出した。二人のやりとりを見て、今日の嫌なことは全部忘れることにした。