Shin Yamagata

お知らせ  zine  Twitter   Instagram


 

f:id:blepharisma:20190723091943j:plain
1月26日
カウンターの席が一つ空いていた。右隣の二人連れは、服装や大きな荷物などから観光客だと思われる。左隣は髪の短い女の人が一人で座っている。わたしが席に着いたとき、女は手を合わせ、ごちそうさまでした、こくりと頭を下げたところだった。一人でもそういうことをきちんとする人、と思ったのは確かで、そのあと、別の何かを思い出しそうになったのだけど、髪が頬にかかって顔が見えないことで、年齢はわからない、そこから身につけている服装などを見て、比較的若い人かもしれない、などと思いはじめ、何かを思い出そうしていたきっかけさえ忘れてしまっていた。カウンターに置かれた食器に視線が移り、ざるそばを食べたのか、右隣の観光客の二人が焼きそばをすすっているのを見た、一人でも手を合わせてごちそうさまをした、その一瞬にそこに漂った雰囲気は本当にもうなくなってしまった。右隣からソースのにおいは漂ってこない。真っ赤な紅生姜が端によけられている。わたしはまだ何も注文していない。何も注文する気がないのに座っている。