Shin Yamagata

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3月8日
近くのりんごの木の花が咲いて満開になった。横を通ると、甘い香りが漂っている。モクレンも開いてすでに散りそうになっている。だけど、今日は冷たい雨が降っていた。自転車屋に寄ってから商店街を歩いてドラッグストアを目指した。相変わらず、紙類が売り切れている。どこか別の海外の国でもトイレットペーパーが売り切れているというニュースを見た。どこもかしこも同じなのか。この商店街唯一のケーキ屋を覗いた。夕方だからか、それともいつもこうなのか、ケーキがぽつぽつと点在するガラスケースがなんとなくさびしい。いかにも昭和といった、一昔前の洋菓子店だ。重たいドアを押し開け店に入った。店員はいない。出てきもしない。奥のガラス窓の向こうに白い帽子をかぶった小さなおじさんがいた。手元を見ていてこちらにはまったく気がつかない。仕込みの最中なのだろうか。すいませーん。出した声が小さかったのかもしれない。おじさんは黙々と作業を進めている。すいませーん。ガラスの向こうだから聞こえないのかもしれない。おじさんの顔は上がらない。すいませーん。こんな閉ざされた空間だからとあなどる気持ちがまだ声を小さくさせているのかもしれない。おじさんの方に足を進めていく。すいませーん。