Shin Yamagata

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4月13日
桜がたくさん咲いている集落だ。坂を上っていく。満開になっているひときわ大きな桜の根元に「○○桜87歳」と書かれた杭が打ち込まれている。いったん下り、また別の道を上っていく。その先の桜の根元にも「○○桜94歳」と書かれた杭が打ち込まれている。○○は人の名前だ。年齢はその桜の年齢ではなくその名前の人が亡くなった年齢だと思われる。誰かが亡くなれば桜が植えられていた時期があるのだろうか。若い桜を見かけることがないからそう推察する。植えた場所はその亡くなった人の家の近くだろうか。集落のあちらこちらに桜が点在している。名前と年齢が書かれた杭だけが残っている場所もある。随分古そうな切り株が残っているからこの桜は以前に切られてしまっている。ひこばえも生えていない。枯れて切られたのか、別の事情があったのかはわからない。すべてソメイヨシノだ。どんどん上っていくと、

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3月6日
あれっと思ったら後輪の空気が抜けていた。自転車を降りてタイヤをよく見ると金色の画鋲が刺さっている。画鋲を引き抜き、近くに自転車屋はあったかなと頭を巡らせながら自転車を押して歩き始める。それからはっとした。引き抜いた画鋲をくっそーと思いながらぽいっとその場に投げ捨ててしまっていた。引き返してまた画鋲を探すべきかどうか。誰かがまた画鋲を踏むかもしれないということよりも、ここはよく通るところだからまた自分が踏んでしまうかもしれないという考えが頭をよぎっている。そんな自分を情けなく思いつつも、

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4月28日
右足にも左足にも両方の足に点々とできていたかさぶたが剥がれはじめ、朝起きると敷布団にかさぶたが散らばっている。触ると痛痒く、剥がれそうで剥がれないかさぶたがぶらぶらとくっつき、ふとしたときに痒みを生じさせている。めくれたかさぶたの下にはもう一層薄いかさぶたのようなものがあり、それも剥がれそうになっているところもある。傷を写せば写真の一丁上がり! 大抵の傷を写した写真を見たときのわたしが言いたくなる感想だ。写真も傷も痕跡だから、ということで傷は撮られるのかどうかはわからない。傷も写真の一種なのだ、などと言いたがる人は、ただ言葉を使って遊んでいるだけだ。傷と写真が似ている、ということを頭で、言葉で捉えているだけであって、本当は何もわかっていない。しかし、そのようなことを言われると、なるほど! 確かに傷は写真だ! と何かわかったような気にさせてしまうのもなんとなくわかる。そういうところから様々なものがどんどんずれていく。そのずれ方がわたしは気に入らない。

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8月12日
昼過ぎから雷鳴。1時間後には降り出す。雨が落ち着いたと思って家を出てしばらく歩くとまた降ってきた。大粒の雨で傘をさしていても下半身がどんどん濡れてくる。雨宿りしようと近くのお寺に寄ると、お墓参りに来ていた人たちが軒下を占領していて居場所がなく退散。空き家になっている浅い軒下で地面に落ちる雨を見る。降った雨が川のように道路を流れていく。そこに落ちる大粒の雨がクラゲをひっくり返したような無数の白い跳ね上がりを作って道路が白くなっている。これだけ一気に降ると川の水も急に増えて濁るかもしれない。カメラを取り出し、道路へ向ける。

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3月10日
夜になって雨が降りはじめた。路面が街灯でてらてらと濡れ光っている。前からくる自転車のライトが上を向きすぎていてまぶしい。路面に黒い塊がある。カエルだ。ヒキガエル。ついこのあいだ、車に轢かれてぺちゃんこにつぶれたカエルを見た。その少し前にも見ていた。とりあえず、道の脇によけておく。沈丁花の香りがする。どこだろうと探すと、垣根の奥にうすぼんやりと白い花が見える。それにしてもこの辺りのカエルはどこに卵を産みにいくのだろうか、あるいは、どこからここにきたのだろうか。どこか広い家の庭に池でもあるのか、それとも

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12月11日
緊急事態だ、緊急事態だ、そうだ、あいつに電話するしかない、電話に出ない可能性が高い、やっぱり電話にでない。移動だ、移動、コンビニだ、コンビニに行くしかない。それ以前にどこかに電波が飛んでいるかもしれない。無料Wi-Fiを探さなければならない。こんなオフィス街ならすぐに見つかるだろうと思っていたコンビニがなかなか見つからない。無料Wi-Fiも見つからない。電話も相変わらず繋がらない。雨は降っている。とっても寒い。誰かにスマホを借りたい。声を掛けて快く貸してくれる人はいるのか。信号を待ちきれず青になる前に渡りはじめ車に轢かれそうになる。約束の時間はもう過ぎた。間に合わない。コンビニがない。もしかしてビルの中にコンビニがあるのかもしれない。ビルに入るか入らないか、どうするか、

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9月16日
この場所は一年ぶりくらいだろうか、懐かしさはない。砂利道を避けて舗装された道を歩く。街の喧騒は大きな木々に遮られすぐに届かなくなる。山のにおいが漂ってくる。人工の森はすでに人の手からほとんど離れている。その森をなんと呼べばいいのかはわからない。外国人の観光客があちこちにカメラを向けている。わたしはまだ写真は撮らない。砂利道へ入ると観光客がますます増え、カメラの数も増え、ここで撮影された写真はいずれ海を渡り、ここではないどこか遠いところへ運ばれ、ここへ直接来なかった人たちも目にすることになるここの写真は、わたしがここにいるにも関わらずわたしとはまったく関係がなく、一つ、二つ、三つ、