Shin Yamagata

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7月15日
南口の商店街にある古本屋に張り紙があった。7月31日で閉店すると書かれていた。駅に準急がとまるようになった。駅前の大きなパチンコ屋や商店街の一部が取り壊されて更地になった。他にも駅近辺で更地になった場所が何カ所かある。そのことと古本屋の閉店に関わりがあるのかどうかはわからない。全品3割引のセールが今日からだというので店に入った。文庫のコーナーの一部分が作者名も出版社もめちゃくちゃになっている場所がある。いつもにも増してめちゃくちゃだ。頻繁に通っていた頃は、勝手に少し並び替えて、欲しい本コーナーを作ったりしていた。文庫のコーナーを見て、漫画のコーナーを見て、単行本のコーナーを見て、雑誌や図録や写真集のコーナーを見た。気になる本が何冊かあったし、3割引で十分に安いのだけど手が伸びない。普段はあまり見ない絵本のコーナーを見ながらどうしようかと考えていた。ピーター・ビアードという文字が目に止まった。久しぶりにこの名前を見た。ピーター・ビアードのことをすっかり忘れていた。象の写真が表紙の写真集のような絵本のような本だった。こんな本が出ていることも知らなかった。山岸章二の名前もある。値札は300円。ここからさらに3割引。こんなに安くていいわけがないと思いながらページをめくった。見たことのある写真も見たことのない写真も






11月28日
いつも夏になると、もう少し大きければなぁ、と思っていた。調べると2003年製造と書いてある。251ℓ以上のものを買えば、東京都からの補助金が4万円。買い換えようと思って家電量販店に行った。めぼしをつけていた冷蔵庫が売り場にあった。二択だった。見て、どちらかはすぐに決まった。これくださいと言って、補助金の申請もお願いします、とスマホで撮影した冷蔵庫の写真を見せた。大丈夫です、ということで椅子に座らされた。お金を払ったり、補助金の手続きをして終わりだと思っていた。なんやかんやと説明を聞いているうちに、このアンケートに答えてもらえると、何かサービスができるかもしれないと言ってくる。結果として、それらのアンケートは、家電量販店がこちらに何を売りつけられそうかというのを知るための資料集めでしかなかった。例えば、サブスクは何を利用しているか、スマホはどこと契約しているか、などなど。だから、合間にそれらの営業を持ちかけられる。昔なら、そういう営業はやめてくれ、冷蔵庫だけ買ってすぐ帰る、ときっぱり、それも態度悪く言ってしまっていたのだけど、そういうことをいう気もなくなっていて、黙って、興味なさそうに聞いていた。そんな態度でいるからなのか、では清算してきます、少しお待ちください、と席を離れた人の代わりに別の人がやってきて、ウォーターサーバーの営業をしはじめた。例えば、ろはすのペットボトルを買うといくらだけど、これだと何円になる、それもお湯も水も出る、みたいなことをずっと喋り続ける。興味なさそうにずっと聞いているのも悪いと思って質問してしまうと、ご質問ありがとうございます、とか言って、聞いた以上のことをしゃべりはじめる。さすがに疲れるし嫌になったから、次また別の人が来たときには、もうぜんぜん何もいりません、ほんとに申し訳ないけど、もう聞く元気もありません、ほんとにすいません、と謝る必要はないのだけど、とにかく相手の気分を害さないように丁寧に断った。そして会計をすませて、また別の席に移されて、それから補助金の申請がはじまった。スマホで撮影してきた冷蔵庫の写真をタブレットで複写して、





8月18日
右手に黒い拳銃を持ったおばさんが一段上にある家から出てきた。急な階段は降りずに家の角を曲がったおばさんが裏山に拳銃を向けた。パン、パン。軽い音。少し間を開けてもう一発。おもちゃの拳銃だった。裏山の木が揺れた。火薬を詰め替えているのか、おばさんが拳銃をいじりながらこちらに向き直った。「サルですか?」聞いてみた。「そうですねん、家の屋根に上ってゴソゴソと」おばさんは笑いながら山に向かって拳銃をもう二発撃った。階段とは別の坂道を麦わら帽子をかぶったおじいさんが降りてきた。「こんにちは」挨拶をすると、おじいさんはびっくりしたような顔をこちらに向けた。そのまま固まって動かないおじいさんにもう一度挨拶をした。不思議そうな顔をしたおじいさんがぺこっと頭を下げた。「サルですねー」と言うと、おじいさんはおばさんのほうを見て少し笑った。このさきの上流にある滝の近くに置いた蜂の巣箱が熊にやられたと