「草上の昼食のように写真を撮ってよね。」
「なに、それ。」
「え〜、しらないの?マネの絵でしょ?」
「草上の朝食だったっけ?」
「マネって誰よ?」
「ええ〜、ほんとにマネを知らないの?近代絵画の父って言われてる人じゃないの?」
「それ、セザンヌでしょ」
「ええ〜、でもマネも近代絵画の父じゃないの?」
「父はセザンヌでしょ。」
「じゃー、母は誰なの?」
「そんなの知らないよ。」
「マネって誰?モネ?」
「ええ〜、画家なのにマネもしらないの?」
「そんなのは知らなくてもいいんだよ。」
「そうだよ。」
「画家ってのは歴史なんか知らなくたっていいんだよ。描いてりゃいいんだよ。」
「そうなの?」
「そうだよ。そんなのはどうだっていいんだよ。」
「いやいやいや、でもマネくらい知ってた方がよくない?」
「大丈夫。」
「大丈夫って。。。」
「勉強して自信をつけるとかなんとか言ってなかったっけ?」
「それとこれは別やねん。」
「別なのかな〜。」
「そんなん知らんでも絵は描けるからええねん。」
「いいのかな〜。」
「いいんだよ。」
「歴史なんて知らない方がいいこともあるんだから。」
「そうなのかな〜。」
「さ、撮るよ。」
「いやー、写真は勘弁してくださいよー。撮られるの苦手なんですよね〜。」
「だめだよ、そんなの。」
「いや、ほんと勘弁してください。」
「ダメダメ、ほら、もっと気持ちを解放してよ〜。」
「あははは」
「おお〜、いいよいいよ〜、いいね〜」
「いや〜、もう〜。」
「さすがにカメラマンやな〜。」
「いやいや、でもおかしくない?」
「確かにおかしいけど。」
「ほら、もっとさ〜、ダメだよ〜、暗いね〜。」
「ね〜、このおじさんなんだかおかしくなってきてるよ。」
「あははは、そうだね〜。」
「ね〜、でもさ〜、またさっきの話に戻るんだけど、やっぱり何かおかしくない?」
「まただよ。」
「なんだよ、また言うのかよ。」
「何がおかしいんだよ。」
「なんにもおかしないわ。」
「だからさー、何かが違うんだよね。さっきから言っている現実ってやつが、ほんとうにそれは現実なの?って思っちゃうわけ。」
「現実に決まってるやん。現実を見てないのはそっちやないの?」
「いや、確かにそれも現実なんだけど、何かが欠けてる気がするんだよね。」
「だからそれはなんなんだよ〜。」
「ほら〜、また撮ってるよ、このおじさん。」
「ほんとだー。」
「いやいや、違うよ、太陽の光を撮ってんだよ。」
「絶対に違うよ。だってそれ、広角でしょ?ちょっと油断するとこれだからさ〜。」
「ほら、きれいだろ、見なよ。」
「ほんとだね、きれいだね〜。」
「あー、またお菓子の上に葉っぱが落ちてるで〜。」
「この花の名前知ってる?」
「しらんわ。」
「わたし知ってるよ。これはうすのきの花だよ。」
「やっぱな〜、そういうのは女の子の方が知ってるんだよな〜。」
「からすがまた近づいてきてない?」
「ほんまや。」
「ほら〜、子どもが転んじゃったよ。」
「子どもっていいね。」
「そう?」
「子どもとかほしいって思うの?」
「いつかはね〜、やっぱり。」
「そうなの?俺は絶対にほしくないけどな〜。」
「そんなこと言ってる人に限ってできちゃうと溺愛しちゃうんだよ。」
「あはははは、そうだよ〜。」
「そうかも、絶対に怒ったりしないかも。」
「俺の友達のカメラマンにさー、仕事に行こうと思ってカメラを見たら、子どもにレンズの前面をマジックでガーって落書きされてた人がいるよ。」
「ええ〜。」
「あははははは。」
「それでも怒らなかったりするんでしょ。さて、誰にレンズを借りて行こうかな、なんて思ったりして。」
「そういうのが余計にかわいく思えちゃったりして。」
「でもさー、俺達だってみんな子どもみたいなもんじゃない?」
「そうかも。」
「いや〜、そんなことないよ。見てみなよ、あの子らを。あんな風にはなれないよ。絶対になれないね。」
「まー、確かにそうだけどね。」
「子どもなんて半分空想の中で生きてるようなもんでしょ?」
「それは言い過ぎなんじゃない?」
「この中だとこの人が一番子どもだよね。」
「いや〜、ほんまにそうやわ。こいつが一番ガキっぽいな〜。さっきもうんこうんこ言って喜んでたし。」
「そんなことないよ〜。」
「わかってないね〜、女の人に対してうんこうんこ言うなんてありえないからね。」