Shin Yamagata

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タバコ




隣に座っていたおばあちゃん三人組の話し声が大きすぎる。「あなた七十二歳?いいわね〜」、とか言っている。「五十代に戻れたら私ミニスカートはいて町を歩くわよ」って、「七十二歳?いいわね〜」って言ってたおばあちゃんがタバコの煙をモクモクと吐き出し、皺くちゃの手を振り回しながら話している。
僕のおばあちゃんもタバコを吸っていたし、手も皺くちゃだった。それにもうどっちに曲がっていたのか覚えていないけど、親指以外の指が右か左に全体的に緩く曲がっていた。小さい頃に指が曲がっている理由を聞いたらニワトリの餌を毎日かき混ぜていたから曲がったと言っていた。おばあちゃんがどのような生活をしたいたとかそういうのはもうわからないけど、おじいちゃんはお酒を飲みすぎで死んだって言っていたし(僕が生まれたときにはもう死んでいた)、ニワトリの卵を売って生活費の足しにしていたのだからきっと楽な生活ではなかったのだろうと思う。僕が生まれたころはもうニワトリを飼うのもやめていたようだけど、子どもの頃に縁日で買ってきたひよこが大きくなってきた時に、どこから出てきたのかわからないけど、昔飼っていたニワトリを入れていたかごを出してくれて、そこでもうニワトリになりかけのひよこを育てたりしていた。そのニワトリはある日、首のなくなった状態でかごの中でゴロンと転がっていた。たぶん野良猫に頭だけかじられてしまったのだと思う。そして気付いたらおばあちゃんはそのニワトリをさばいたみたいで首のなくなったニワトリは冷蔵庫の中に鶏肉として入っていた。さっきまで毛が生えて生きていたニワトリがただの肉に変ってしまったことになんとなく驚いていたし、あまり食べたくないとその時の僕は思っていた。
僕のおばあちゃんが生きていたとしても五十代に戻れたらミニスカートをはくとは絶対に言わないだろうし、田舎に住んでいて家の前の畑とかを耕しているあちこちのおばあちゃんもそんなことは言いそうにないから、東京のおばあちゃんはやっぱりハイカラなのだろう。