Shin Yamagata

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ハンカチ




(昨日の続き)
おじさんは革ジャンの内ポケットからハンカチを取り出して、かいてもいない汗を拭うためにおでこにハンカチを押し当てた。それから少しのやり取りがあったけど、その時は本に意識が半分くらいは向いていたのでどういうやりとりなのかはよくわからなかったけど、
「捨てるなら私にちょうだい」
というおばさんの声が聞こえたせいでまた二匹の生物に引き寄せられてしまった。
「いや〜、この色が良いんだよね」
「だから捨てるなら私にちょうだい」
「なんでだよ〜」
おじさんはきれいにたたまれているハンカチをまたおでこに押し当てた。
「そんなこと言うならもう返して」
おばさんは怒ったような拗ねたような感じで少し口を尖らせている。
「やだよ〜」
「・・・・・・・」
「もぉ〜、冗談だろ〜」
「もぉ!なんでそういうこと言うのよ、どうして捨てるなんて言うのよ」
っていいながらおばさんは体をクネクネさせている。
「それは大判だからいいでしょ」
「ああ、いいいねぇ〜、使いやすくていいよぉ〜」
さっきまで捨てるって言っていたおじさんが今は使いやすくていいと言いながら濃い紫色と黒色がまだらになっている模様のハンカチを革ジャンの内ポケットにしまった。そしてコーヒーの乗っているテーブルの下でおばさんはおじさんの靴の先のほうを自分のつま先でチョンチョンとイチャつき、おじさんもおばさんの靴の先のほうを同じようにチョンチョンとイチャついていた。
(数日後につづく)