Shin Yamagata

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吊り革




左右の手を吊り革に手首まで突っ込んでいた。もう暗くて細かいところまではよく見えず、街灯の明るく光る光源とその周辺がガラスの向こう側に見え、それと同じように自分の姿や隣に立っているおばさんの姿や背景の様子がガラスに反射してうっすらと見えていた。車内は込み合っていた。下を向くと前に座っている女のひざの上に乗っている黒いかばんが見える。それとは別にもう一つ白くて小さなかばんが黒いかばんを包み込むように抱えている左手の手首にぶら下がっていた。かばんは二つより一つの方がいいだろうと思っていた。かばんを二つ持った女が立ち上がったときに白いかばんに小さな赤い文字で「LOVE」と印刷されているのが見えた。女は目白で降り、その空いた席に座った。女が細かったので座るときに両隣の人と肩が触れ合った。右隣に座っていたおじさんが少し嫌な顔をした。