Shin Yamagata

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長靴




どうやって捕らえたのかはわからない。時々道路を横切っているのを見かけたからそれを捕らえ、爪を引っ掛け空中へ舞い上がらせ、あるいは噛んだりしながら、とどめを刺したりしないでじっくりいたぶり遊んでから殺して部屋へ持ち帰っていたのかもしれない。だからその猫が右前足を使って洗濯物が干してある団地のベランダのすぐ前にある花などが植えてあるところの土を掘り返しているのを見たときはモグラでも捕まえようとしているのかと思った。いつまでもざくざくと掘っていたのを中断し、少し前に歩いてその穴に腰を下ろす。うんこかと思ったら猫のお尻からうんこが出てくるのが見えた。一つ長いのが出てポトリと落ち、短めのがそれからポトリと落ちた。猫はそのまま目を細め前のほうを見て動かない。今日はなんだか暖かいじゃないの、上着なんて着てくるんじゃなかったわ、ほら見て、と雨も降っていないのに赤い長靴を履いた小さな女の子の手を引きながら歩いているもう若くはない母親はその猫のいる方を指差し、ほら猫も日向ぼっこ、とうんこを出す瞬間を見ていない親子はそんな会話をするのかもしれなかったが、私にはまだ出るぞ(うんこ)という気配が漂っているのを感じることができる。腰をギュギュギュと動かしたかと思ったら短いのがポトリと落ちた。人間と同じじゃないかと思った。それから猫は反時計回りで180度回転し、穴の中のうんこを見た。見たように見えただけでにおいを嗅いでいたのかもしれない。もしくは確認した。何を。確認したという言葉はあまりにも人間に近すぎやしないか。猫は人間ではなかった。それから右前足を使い太陽の光をたっぷりと吸い込んだ乾いた土を引掻き穴へ落とし入れた。やたらめったら方向もおかまいなしで土や小さな石を後ろ足を使って飛ばす犬とは違いそれは的確だった。埋め終わった猫はその場でまた目を細めて座り込んだ。立ち去ろうとして一歩踏み出したとき猫はこちらに気付いて顔を少しこちらへ向けた。