2月11日

腕時計を忘れた。髭を剃り忘れた。忘れ物はそれだけだ。疲れていた。疲れていたから、これは絶対に忘れてはならないと、いつも以上に持っていくものの確認をしていたら忘れてもそれほど支障がないものを忘れてしまった。時計は携帯音楽プレイヤーについているし、近くにいる人に聞けばそれで済む。一日剃らなければ泥棒みたいになっちゃうよと言っていたのは同じ職場の吉田だが、彼は子育てに忙しく夜遊びには参加しない。その吉田ほど髭も濃くないから一日剃らないくらいでどうってこともない。帰りの電車の中で働いていた場所からリンリン電話がなりまくっていたようだが座ったとたんに寝ていたのだからその電話にはまったく気が付かない。さらに疲れていた。それがどんなに緊急を要するものであったとしても寝ているのだから電話には気付かない。電話に気付かないのだからその場で気付けば解決したかもしれない問題も解決されることなく先送りされてしまう。けれども携帯電話は静かに震えていたのだ、電車の中の鞄の中で。