Shin Yamagata

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コニカミノルタフォトプレミオ(http://konicaminolta.jp/plaza/)の授賞式に参加して、普段食べることのできないタカノの果物(フルーツ)を食べたりしながら、久しぶりに会う人とかよく会う人とか初めて会う人とかと話をしたりしなかったり、写真を見たり見なかったりしていた。
その後、久しぶりに会う人とかよく会う人とか初めて会う人とか10人くらいで飲みに出かけて、写真のこととかエヴァンゲリオンのこととかそういう話をしていた。2時間と少しでその店を強制的に追い出されたけど、まだ少し時間があるからってウイスキーの水割りが200円で飲める店に行くことになった。そこで帰った人も数人いた。
それにしても2時間制とか言って追い出されたけど、店には空席がまだまだあって、だから席が空いているのだし、時間も時間だからもうそんなにお客もこないだろうから、そのままほっておけば何かしら飲み物とか頼んで、店としても売り上げも上がるだろうにバッカじゃね〜のなんて思っていたけど、バカなのは僕なのかもしれなかった。
次の店はお客さんがいっぱいで仕方なくカウンターに6人で座ることになった。横一列なので、結果として3人ずつに分かれて、そしてソフトドリンクのほうがその店は高いから、飲めないウイスキーソーダ割を頼んで、少しなめながらまた写真の話とかをしていた。隣の3人は何を話しているのか全然わからなかったけど、途中で僕の隣の隣に座っていた男が、「唇を奪われた。」と言い出した。そしてその男の隣の隣の男も唇を奪われたらしい。やれやれ。っと、「やれやれ」とか書いてしまうだけでアホみたいに売れてる村上春樹っぽくなってしまうのではないかと期待したけど、それまでの文章が違いすぎるからそうでもなくてがっかりしたけど、とりあえずそんな話はどうでもいい。奪ったのは僕の隣の隣の隣に座っていた女だった。酔っ払って唇を奪い始めたらしい。そして僕の右隣に座っていた女が男達の唇を奪っている女に「飲みすぎ!」と注意したら、奪っている女は「怒られちゃった〜」と笑いもせず、真顔でつぶやいていた。電車がなくなりつつある時間になったので、店を出ることになった。僕はとりあえず300円払った。
酔っ払ったみんなはまだまだ行くぞという雰囲気になっていたけど、僕はいい加減夜型の生活はやめようと思っていたので、帰ろうと決めて、比較的酔っていない男に「ほんだらまた」と手を振ってそっとその集団から離れて駅へ向かいながら途中で振り返ったら、5人はくっついたり離れたりしながらまたどこかに歩き始めていた。
電車の中は酔っ払いと酔っ払い以外と仕事で疲れた人に分かれていた。目の前に座っている女は顔が赤くなっていてまばたきをほとんどしないままどこかを見ていて、時々ニヤっと笑っていた。隣に立っている帽子をかぶった若い男は酔っていないのに電車が揺れるたびに僕にぶつかってきていた。
電車を降りていつもの商店街を家に向かって歩いている時に、その日の昼間の太陽が欠ける瞬間を曇り空のせいで見ることができなかった事を思い出して、また残念な気持ちになっていた。そういえば福岡の友達から、太陽が欠けて少し薄暗くなったというメールがきていて、その「少し薄暗くなった」という生々しい感触がうらやましくて仕方なかった。少し前を歩いている男との距離が全然変らないまま、そして少しその距離が近くて気持ち悪かったので今まで歩いたことのない道にさっと逸れてみた。他の道は大抵歩いているはずなのに、その道だけはどうしてか今まで歩いたことのない道だった。道が一本ずれるだけで、知ってた風景が知らない風景に変ってしまうと改めて思いたかったのだけど、夜だったのであまり何も感じなかった。
家に近づいた時にたぬきが前の方を横切った。人の背丈程の草が生え放題になっている空き地の中へ足を止めてチラッとこちらを見てから柵の隙間から入っていってしまった。その空き地にはたぬきが絶対に忍び込んでいるだろうと思っていたし、忍び込むとしたらこの隙間からだろうと思っていた、ちょうどそこからたぬきが入っていったのでうれしくなった。足を止めて耳をすますと草がサッサッとこすれる音が聞こえる。たぬきがこの柵に囲われた草がぼうぼうの空き地の中を歩いている。ガサガサガサガサガサと動きが急に激しくなったと思ったら、「ギャッギャ」というのかなんというのか聞いたことのない声で獣が吠えた。たぬきの声だろうけど、見えないのでなんとも言えないけど、どう考えてもたぬきの声だと思った。他のたぬきがいたのか、もしくは猫でもいたのか。その声が聞こえてからはもう草を踏む音は聞こえなくなってしまった。
住んでいるところの一階の郵便箱の集まったところの下に大きなカナブンがひっくり返って足をウネウネ動かしていたから、起こしてやろうと思って起こしたらカブトムシのメスだった。お前は近い将来たぬきに食われるぞっと思った。