Shin Yamagata

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空港





思っていたよりも蒸し暑かった。機内のアナウンスで到着地は曇りと言っていたけど、白くてふわっとした雲がポコポコ浮かんでいる青い空が広がっていた。何本かのやしの木が真上に伸びているのを見ながら高知の駅前にあったやしの木のことを思い出していた。高知にいた時はやしの木を見るだけで南国に来たという気分になっていたけど、ここは本当の南国で、だから別にわざわざやしの木を植えて南国をアピールする必要もないと思ったけど、ここはやっぱり南国なのだからやしの木があるのが普通で、「やしの木=南国」という日本人の思い込みを利用しているのは日本の南のほうにある県の思惑であって、そんなのばかり見てきている僕にはグアムのやしの木さえもその思惑の一部のように感じることしかできなくなっていたということではあったけど、その「やしの木=南国」という思い込みは日本の南のほうにある県によって勝手にいつのまにか植えつけられたものなのかもしれなかったし、グアムやハワイを紹介した写真に必ずといっていいほどやしの木が写っていることも何か関係があるのかもしれなかった。予想としてはハイビスカスの花が空港に咲き乱れているのではないかと思っていたけど見当たらず、南国という印象よりも日本の田舎のどこかの空港という印象を強く感じていた。そして強い日差しがいろんなものへぶつかり放出されている熱に触れると、たった3時間で季節が変わってしまうのだということを実感していた。つまりグアムは日本でいうところの夏だった。カメラを取り出した後に出来たかばんの隙間に着ていた上着を詰め込み、そのかばんを車のトランクに放り込み、少しだけ涼しくなっている車内へと乗り込んだ。空港からホテルへ向かう車の車窓から見える風景は日本とあまり変わらないと思っていた。道路があって車が走っている。信号や道路標識や走っている車は少し違っているけど、ざっと見ればほとんど変わらない。植物も少し違っているけど、植物が生えていることは同じで、生えている場所もそんなに変わらない。道路の両脇には何かのお店も並んでいる。店のかたちは少し違うけど、道路の横に店があることも日本と変わらない。車の走るスピードも早くも遅くもなく日本と変わらない。車の構造上、どこへ行こうともこの程度のスピードが普通なのだ。ホテルが建ち並んでいるところへ近づくと日本語で書かれた看板も多くなってくる。日本人が歩いている。半ズボンの男と派手なスカートをはいた日本人の女。あの女の名字は「佐伯」かもしれない。ここはグアム県だと思った。