7月15日
山手線に乗る。座れない。座りたい。この暑さだ、仕事をする前から疲れたくはない。座っている人を見る、どの人が次の駅で降りそうなのかわからない。何かを考えるのもめんどくさい。暑い、だるい。つり革にぶら下がるように掴まって外の風景を眺めたり車内を眺めたり。次の駅でも座れない。窓から駅のロータリーがちらっと見える。風景は夏だ。眩しい。街路樹の緑とビルのずらっと並ぶ窓と道路を走る車。窓ガラスに少し色がついているのか、全体的に青っぽい。これが旅行に来たときの風景なら、と思おうとする。少しだけ気分が変わるような気がする。東京観光だ。次の駅も誰も降りない。日傘をさして歩く女、スーツの上着を着たまま歩くサラリーマン、目に入る風景が暑い。観光気分にはなれない。次の駅でようやく座れた。目をつむってイヤホンから聞こえる音楽に集中する。そのとき流れていたのは土岐麻子のなんとかドライブみたいな曲だ。
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6月24日
前を走る車がまばらで、少し先の陸橋の曲線が気持ち良さそうに見えている。上りはじめてすぐ右へゆるく曲がりはじめる陸橋の向こう側にはビルが点々と突き出て見えている。速度を落とさないまま車体を右側に傾け陸橋を上っていく。減速せずに曲がることができる緩いカーブが気持ちいい。上るにつれて、林立したビルの四角の連なりと空だけの風景が広がり、頂上の手前あたりから今度は左に曲がりはじめる。様々な形のビルの四角が遠近を含めてずらりと視界を横切っていく。下った先の信号は青だ。
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4月6日
川から離れて坂道を上っていく。膝に手をつきながら上るような急な坂道を上って振り返ると、谷筋に屋根がびっしりと詰まった町が一望できた。上りきった場所は台地というほど広くなく、ほとんど尾根のような場所で、道路の脇に数件の家があるだけだった。反対側に下りながら見えている町はついさっき眺めていた谷を流れていた川が合流する本流の周りに広がっている町だから、背中側にある町とは比べものにならないくらいに大きく広がっている。
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12月27日
今日が年内最後の仕事で、フランス料理屋の臨時の皿洗いだ。前半は洗い物も少ないからときどき店に出て料理や飲み物を運んだりする。料理が出はじめると洗い物も下がってくる。それと同時にパンを焼く係も任命されているから「パン二つ」と指示が飛ぶと、パンをオーブンに入れ、100円ショップで買ってきたらしいタイマーのスイッチを押す。忙しくなるとタイマーのスイッチを押し忘れてしまうし、パンを出したことも忘れ、慌ててオーブンを開けるのだけど何も入っていなかったりして、頭の中にパンのことが不意に現れたり消えたりして、頭の中からパンのことを考えている部分だけを取り出して別の所に置いておきたくなるくらいこんがらがってくるのだけど、そんなことを考える余裕もなくなるくらいにどんどん皿が下がってきて、それと同時に「パン」と指示が飛び、それでも、これが終わればもう年末気分なのだから、と手を休めることなく
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8月15日
台風がくるといっているけど、昼になってもまだそれほど雨が降っていない。風もそれほど強くない。ただ、川は増水しているから山では結構降っているのかもしれない。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190815-00029144-mbsnews-soci
避難指示がでている。世帯数と人の数がほとんど同じ、というのが気になる。一人暮らしの人がほとんどということで、それは、都市部での十代や二十代の一人暮らし、というわけではなく、おそらく、というかほぼ間違いなく、お年寄りの一人暮らしということになる。そうすると、若い人がほいほいと避難するように避難できるはずもない。ニュース原稿は無味無臭というか、さっぱりと書かれているけれど、本当はそれほどさっぱりとはしていない。