Shin Yamagata

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写真家が書いた本を読んでいたりすると、現像液に入れた印画紙の上にジワッと像が浮かび上がってくる瞬間のことが書かれていたりする。そういう時はたいてい、神秘的だったり魔術的な響きを持たせて書かれていたり、その瞬間はとても大切で重要な出来事で、それは写真の原点だ、、、のように書かれていたりするけど、そして確かにはじめてそれに触れたときは「おおおー」って思うような瞬間ではあるのだけど、それにしてもそんなことをいつまでも大事に抱え込んで本当にプリントしているのだろうかと思う。僕は現像液の中に印画紙を入れるときは像が浮かび上がってくる面を上にして入れるけど、すぐにひっくり返してしまうから像が浮かび上がってくる瞬間は全然見ていない。いつも印画紙の裏側の白い面を見ている。白い紙と時計の針を見ながらイヤホンから聞こえてくる音楽を聴いていたり、何か別のことを考えたり、写真のことを考えたりしているのだと思う。そして印画紙を定着液に入れて、電気をつけた後にじっくりと写真を見ることになる。でもその時の写真は濡れているから本当のところそれでいいのかどうかはよくわからない。
前は現像液から停止液に印画紙を入れたときに、印画紙からでる「キュイ〜〜〜〜〜」っていうような小さな音と、プクプクでてくる小さな泡を見るのが唯一の楽しみといえば楽しみだったけど、最近はイヤホンを耳に突っ込んでいるからその音さえ聞こえない。音が聞こえないと泡もあまり見ようとしない。定着液に入れたら、すぐに電気をつけて写真を見たくなる。でもすぐにつけることはできないからしばらく定着液の中で写真を揺らしたりしているけど、その時間が嫌で仕方ない。とにかく早く電気をつけたい。こんなのだから暗室が好きになれないのだろうか。