Shin Yamagata

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つづく





前回
人間ではない何か別の生き物がそこにいるようである。いつもの佐々木の歩き方は肩の動かし方が独特で遠くから見てもすぐに佐々木だとわかるような歩き方だけれど、今日はそれをさらに30パーセントくらい大袈裟にしたような感じになっていて、ピンクと水色がチラチラと鬱陶しいくらいに動いている。ピンクと水色の格好は灰色を基調としたこの住宅街には合っていない(この格好が合う住宅街が日本にあるとは思えない)。夏の強い日差しがピンクと水色をさらに際立たせている。佐々木の色黒の首筋は汗で光っている。この住宅街とこの佐々木は合わないけれど、夏の日差しとこの佐々木はなんとなく合っているような気がした。佐々木は真顔でこちらに振り返り、またすぐに前を向いた。そして口笛を吹きながらさらに体を揺らし始めた。
佐助は首輪についている鎖を外して青い散歩用の紐を取り付けるとビョウンビョウンという勢いはなくなり、普通に犬が歩くような感じで佐々木が歩いて行く方へ歩き始めている。コンクリートにジャッジャッっと爪の当たる音がよいリズムを刻み、それに合わせて尻尾も揺れている。歩いている佐助の背中から後ろ足の付け根の辺りの体の動かし方は少し年寄りっぽいと思ったけど、実際の佐助の年齢はわからない。時々ムッと犬の臭いがする。真上から佐助の歩いている様子を見ることは普段犬を見ることとはかなり違っている。顔はほとんど見えないし足もあまり見えないから胴体(背中)がグネグネと動いているのが見えるばかりで、それは犬ではなくて茶色い何かとしか言いようがなかった。そんなことを思っている間に佐々木に追いつき、そして佐助は佐々木の歩く速度に合わせて歩くようになっていた。
つづく