Shin Yamagata

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12月4日
夜になって小雨が降りだしていた。傘をさしている人もさしていない人もいた。住宅地を歩いていた。公園のベンチの下に猫がいた。ゆっくりとベンチに近づいて行く。住宅を三つか四つ挟んだ向こうの方から女の人の叫び声が聞こえてきた。距離にすれば百メートルもなさそうな距離だ。キャーというよりもギャーという感じで、最初は友人とふざけあって声を出しているのかと思った。叫び声は間をあけて何回か続いた。五回目くらいになったときに、友人とふざけて叫んでいるというような感じではないかもしれないと思った。だからと言って誰かに襲われて助けを求めているような声でもなさそうで、よくわからない。しばらくすると声は聞こえなくなった。念のために声が聞こえてきた方へ歩き出す。ギャー。すれ違いざまに女の人が真正面を向いたまま叫んだ。ウオォォー。こっちも驚いて声を出してしまった。まったく普通の女の人だった。二十歳前後の若い女の人だった。ダッフルコートを着て傘はささずに歩いていた。遠ざかっていく女の人の後ろ姿を見ていた。ギャー。また叫んだ。