11月18日

仕事を終えてビルの外へ出ると吉田と内田の密会の現場を目撃した。正確には吉田をすぐに認識することは可能だったが、それは顔が見えていたからなのだが、内田は後頭部のみの後姿だったから小柄な女とまではわかるものの、20代の女なのか40代の女なのかも不明で、だいたいどうして吉田がこんな場所で女と話しているのかもわからず、つまりその時点では内田だということもわからず、だから冒頭に「密会」と記したのは、詰まるところそれが何なのかわからなかったからであるし吉田には妻子があった。吉田はすぐにわたしに気が付き手をあげた。しかしわたしの方が先に手をあげていた。わたしの方を見て手をあげている吉田の姿を見ているはずの後姿の女は吉田の視線が自分自身の後方に向けられ尚且つ手まであげているにもかかわらずこちらに振り返りもせず吉田の方を見ていたのである。なんということだ。女は味わったことのない妙な間を作った後にそっと振り返った。内田だった。