Shin Yamagata

お知らせ  zine  Twitter   Instagram


 

f:id:blepharisma:20210923140214j:plain
3月20日
山を下りはじめてすぐに分岐点があった。こっちでしょ、と適当に言う男に着いていくと、見晴らしの良い場所に出た。景色を眺めたり写真を撮ったりしている間に小学生の男の子と女の子を連れた家族が下りてきたから場所を譲ってわたしたちはさらに下った。急な坂道は雨水で流されて中央がへこんでいて歩きにくかった。段差があったり大きな石が転がっていたりして、下ることがだんだんと嫌になりはじめていた。足腰に響いてくる振動がいちいちつらいと思うようになっていた。そうするうちにまた分岐点があらわれた。一方はそのまま下って行く道で、もう一方は上っていく道だった。下っていく方でしょ、という男を制したのは埼玉に住む女だった。埼玉に住む女は足が折れて倒れている地図を指さしていた。そんなところに地図があったの? と下り道を歩きかけていた男が戻ってきて他のみんなと一緒に地図を覗き込んだ。これ、上りじゃないの? そう言った埼玉の女に、もう帰るのだから下りでしょ、と男が言うのだけど、