Shin Yamagata

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名前




飼っていた猫にはきちんと名前が付けられていた。それはどこにでもあるような猫の名前だった。そんな名前でその猫のことを呼ぶのは恥ずかしいような気がしていたから、その名前で飼っていた猫を呼んだことはなかった。いつも「ネコ」と呼んでいた。というか、他の家族に「ネコはどこにおる?」と聞く時に「ネコ」と言うくらいで、その飼っていた猫に対して、声を発して直接呼びかけるということはしたことがなかった。心の中ではそのネコのことをいつも「おい」とか「お前」と呼んでいたような気がする。
僕が中学生くらいのときにその猫は妹によって拾われてきた。白、黒、茶ときっちりとパンダのように色が分かれている三毛猫じゃなくて、全部がごちゃごちゃに混ざっている、全体的にはこげ茶色のような三毛猫だった。なので雌だった。手のひらにのるようなその小さな猫は底にタオルが敷かれた段ボール箱の中で寝ていた。小さい頃、犬は飼っていたことがあったけど猫は初めてだったので猫の舌がザラザラしていることにまず驚いていた。