Shin Yamagata

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メロンパン




公園のベンチに座っているとおじさんが隣に座った。おじさんから気配が漂ってくる。それはおじさんが座るときにこちらをチラッと見て、座ってからもこちらをチラッと見て、チラッと見るときの体のひねり方や顔の向け方がわたしの目の端に捉えられていて、それらが「気配」として受け取られているということだ。その気配はわたしとしゃべりたいという気配で、おじさんは酒臭い。酔っているのかもしれない。酔っているはずだ。なのに手に持っているのはお酒ではなく緑茶のペットボトルとメロンパンだった。わたしはその気配に気付かない振りをしていた。気付かない振りというのは少しおかしい。振りではない。気付いているけど反応しないということだ。それは無視だった。おじさんの方へ顔を一切向けない、むしろおじさんとは逆の方にある桜の木の下にビニールシートを敷いて座っているおばさん4人を眺める姿勢を取りつづけるということだった。そうやって座っているとおじさんが「今日は暖かいですねー。」とメロンパンを齧りながら正面を向いたままつぶやき、わたしは「そうですねぇ。」とおばさん4人を眺めながらつぶやく。そういう春はもう終わった。