ベンチに座っていると、こないだそこで花見していましたよね、と声を掛けられたのだが花見をしていたような気もするししていなかったような気もしている。小さな柴犬を連れた女の人は、表面は茶色いんですけど中の毛は白くてこの時期は毛が抜け始めて黒い服につくから大変なんです、と言った。ごろんとひっくり返った柴犬は芝生に背中をこすり付けてごろごろとしていて腹を空に向けている。これから天気は崩れるとラジオでは言っていたけど今のところそういう気配は感じられない。どこを見ても青い空が広がっている。柴犬に向かって手を伸ばすと柴犬は遠ざかった。
