Shin Yamagata

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10月23日
玄関を出たら雨が降っていた。起きてカーテンを開けて見た空は曇ってはいたものの、すぐに降るといった感じではなかった。だからその突然さに驚いた。突然だな、突然だな、何度もそう思いながら傘をさして歩きだした。子供を幼稚園か保育園かに預けてきたらしい自転車に乗ったお母さんたちとすれ違うのだけど、誰も傘をさしていない。雨に濡れながら自転車をこいでいる。空を見上げた。明るく、雨が降っている空の色とは少し違う。駅へ向かう人の半分は傘をさしていない。傘をひらくまでもない雨、と言えるような雨ではあるけど、雨が降るとは誰も思っていなかったのだろう。この風景の中に、みんなに共有されている何かの気配があると感じるのだけど、それは、突然雨が降り出した、ということではない、そのことはわかるのだけど、何かの気配の何かがさっぱりわからない。ただ、共有されているという

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9月12日
英語は話せない、パソコンを二台並べてお互いGoogle翻訳のページを開く、これは便利だ、トロいけど会話ができる。日本語を打ち込めば英語にしてくれるし、相手の英語は日本語になる、お互い住んでいたところの地図をグーグルマップで見せ合う。航空写真に切り替える。相手の住んでいたところには山がなく、私の住んでいたところには山しかない。パソコンの画面を見ながらトロい会話を続ける、トロすぎてもどかしい、なんか違う、このテンポ、のろい、のろすぎる、もっとサクサクと話したい、グーグルに気を遣って翻訳しやすそうな日本語を打ち込んでいるのも何かトロい、のろい、便利だけど何か、なにか、ときどき相手の目を見る、せめてときどき目を見なければならない、そうか、そういうことか、テンポ、会話、視線、それら

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11月22日
寒くなったからか、風邪っぽい。暖房を入れようと思ってリモコンを手に取り、スイッチオン。運転切替ボタンを押して冷房から暖房へ。最後に冷房を入れたのはいつだったのだろうかと考えているうちにエアコンの様子がおかしいことに気がつく。タイマーのランプがチカチカと点灯している。なんだ、これは。嫌な予感は的中して、ネットで調べると故障だと判明した。チカチカの具合でどこに不具合があるのか見当がつくらしいが、故障は故障だ。暑い時じゃなくてとりあえずよかった。寒いのは湯たんぽもあるし服を着込めばなんとかなる。それにしても今年はいろんなものが壊れた。そういう時期にきているのかもしれない。エアコンはもう十年以上使ったのだから、ごくろうさんと言いたくもなるけど、壊れたパソコンは理不尽というか、アップルという会社のやり方がとにかく気に入らない。

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11月25日
男も女も子供もそこにいる全員がカメラを構えて同じ方向を向いている。木にたくさんの電球が取り付けられたけやき坂という通りとその向こうのオレンジ色に輝く東京タワーを同じ画面におさめることができる少し高くなった場所だ。その場所には街灯の光が届いていないから、カメラを構える集団が夜の木のように真っ暗な塊となって見えている。近づいて目の前にカメラを持ち上げているたくさんの横顔に向けてフラッシュをたいてみる。小さなモニターに真剣な眼差しの横顔がたくさん写る。撮影することに夢中だから自身が撮影されたことに誰も気付いていない。何かに夢中になれば他のことは見えなくなる、わたしも誰かに撮られていたのだけど、そのことにはわたしは気付いていない。

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7月25日
朝出かけて一度帰宅し、またすぐ出かけ、夕方出先からまた別の場所へ移動して帰宅し、薄暗くなりはじめた頃にまた出かけた。もう電車にも原付にも乗らない。徒歩だ。歩道には人がたくさん歩いている。その人たちと同じ方向に歩いていく。みんなが向かう先は同じだ。遠くからお腹に響く低い音が聞こえてくる。先に見える信号をたくさんの人が横断している。進むにつれて人が多くなってきた。門をくぐり、昨年同様手荷物検査を受ける。不審なものなど持ち込んでいない。それにしても鞄を開いて見せるだけで済む検査のいい加減さが気になる。戦車が二台並んでいてその前で子供達が写真を撮影している。それを撮る。奥へ進むにつれて音が大きくなり、隙間がないくらいに人が増えてくる。ソースのにおいが漂ってくる。

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1月16日
陸橋を下る先にテールランプの長い列が見える。陸橋を下り終えたところから車の隙間を縫っていく。先の信号が青に変わる。バスが指示器を出す。タクシーのうしろは走りたくないから、タクシーを追い抜く。でかいバイクが猛烈な音とスピードで追い越していく。トラックの排気ガス。追い抜く。次の陸橋の手前で車線を変える。陸橋を超えた先の信号を左折するためだ。寒い。

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2月13日
大型犬と一緒に暮らしたいから夫とは別居をする、という妻を前に、その夫は、リスクを背負って冒険しなければ人生はつまらない、などと言う。別居するまでに三年の猶予が与えられている夫が、はたしてリスクを背負って冒険するのかどうかはわからない、それ以前に、「リスク」や「冒険」と発せられた言葉に、どれほどの具体性があるのかと訝しんでいる妻は、夫を目の前に真顔でお茶を飲み、大きく育った犬に引きずられるように散歩している自身の姿を思い浮かべ、そこに夫の姿も一緒に映り込んでいるのかどうか、あなたにはわかるはずもないのだけど、妻の表情も夫の表情も見ていたあなたは、自身の夫のことを思い浮かべていた。今後訪れるはずの経済的な危機をどのように乗り越えなければならないのか、「生活」を人質にとられ、くだらないこと、明らかな不正に目をつむってやりすごさなければならないことに、がまんできなくなったあなたは、