Shin Yamagata

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パンタグラフ




前回
しばらくするとドアの近くにある蛍光灯を除いたすべての明かりが消え、冷房も切れた。パンタグラフを下ろしたと車内放送があった。夜中のフェリーに乗っている感じだと思った。薄暗い中、ひそひそと話している声が聞こえ、時々何かが動く音が聞こえ、だけども全体としてはしんとしている。ドアの近くの蛍光灯の光は夜のフェリーの中の自動販売機と同じ明るさだった。
キャンセル待ちでフェリーに乗ったとき、寝る場所がなかった。無理矢理割り込めば寝れないこともなかったけど、それにしては人との距離が近過ぎるような気がしていた。自動販売機の横に少し暗くなっているスペースがあったので、毛布を敷いてそこで寝ることにした。夜中になってもジュースを買いに来る人は途絶えなかった。ガタンとジュースが出てくるたびに浅い眠りから覚めて、薄く眼を開けていた。自動販売機の光に照らされている、ジュースを買った人の靴を見ていた。自動販売機の横には椅子やテーブルが並べられていて、そこでひそひそと話しこんでいる人もいた。気だるさが浅い眠りに付きまとっていた。電車の中全体にただよっている気だるさが、薄く眼を開けて靴を見ていた気だるさと似ていたのかもしれなかった。
冷房が切れるとすぐに暑くなってきた。気温が上昇したのもあったけど、体が熱くなってきたように感じていた。そしてこの車内に閉じ込められているのが嫌だと思い始めていた。外へ出たいと思っていた。周りの乗客たちを見ていた。窓を開けるようにと車内放送があった。だけど窓を開ける人は誰もいなかった。
つづく