Shin Yamagata

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鳥取




前回
車掌のところまで歩いていくところを想像していた。電車を降りたいから扉を開けてくれと車掌にお願いしているところを想像していた。線路に飛び降りたときのジャリッていう音を聞いていた。車内の温度は上昇している。もう一度窓を開けるようにと車内放送があった。斜め前に座っていた男が窓を開けた。見える範囲で窓を開けたのはその男だけだった。男は少し周りを見まわしてから、ぎこちない手を伸ばして窓を下に押し下げた。窓を一つ開けたところで何も変わりはしなかった。空気の流れも変わらなかった。
お腹が痛くなってきたように思えた。鳥取かどこかで電車に乗っていたときにお腹が痛くなったことを思い出していた。あと3、4駅で目的地に着く予定だった。その電車にトイレはなかった。便意は周期的に訪れその感覚は狭まってきていた。途中で降りれば、次の電車までまたしばらく待たなければならないのが嫌だった。そのときはこの電車の中のどこで大便をすれば誰にも見つからずに出来るか、ということばかりを考えていた。そんなことは不可能だとわかりつつ、そのことばかり考えていた。目的地の駅で扉が開いたときには、もうベルトを緩めながらトイレに向かって早足で歩いていた。この電車から降りたいという気持ちはどんどん強くなってきていた。
つづく