Shin Yamagata

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4月12日




前夜祭だということだった。神社の境内に設置された「特設会場」ではカラオケ大会がすでにはじまっており女子高生なのか50歳のおばさんなのか、判然としない女がすごく音を外して知らない歌をうたっている。しかしその女の歌にはどこか人をひき付けるものがあり、特設会場のまわりには主に中学生の男と女が集まりはじめていた。歌っている女はもしかすると女子中学生なのかもしれない。その女のうたう姿を見ているとふとここが東京で平成の世の中だということを忘れそうになる。女の歌声は時空を超えているのだ。今この場はかつての日本に存在し、今はもう失われカスのようになってしまっている何かに支配されており、曲がりくねった松が描かれた絵の前でうたうえんじ色のセーターに膝が隠れる長さの黒いスカートをはいた女の歌声は若い男と女の目を潤ませはじめる。手拍子は大きくなり、聴いている者の体は揺れはじめ、女の歌声は澄み渡る。「その女はヘビだ!」誰かが叫んだ。