Shin Yamagata

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120円




夜になって益々暑くなってきたような気がする。日中は日差しがあるからそれによって暑さというものに実感があるのかもしれないけど、夜は何の実体もないただの暑さが体に纏わりついてくる。
外へ出た。部屋にいるよりは涼しいかもしれない。
ipodのボリュームを大きくしていたので、かかとを上げたときにペタンとゴムぞうりがかかとに当たる、あのゴムぞうりで歩いた時に必ず聞こえてくる音が聞こえてこない。音が聞こえないので、振動だけがいつもより余計に伝わってくる。夜は風景もよく見えないから、足や体に伝わってくる振動に注意しながら歩く。
駅まで歩きマクドナルドで120円のアイスコーヒーを注文し、宮崎誉子という人の「日々の泡」という小説を読み始める。バイト先の話で、ムカツク先輩が出てきて、読んでいると本当にムカついてくるし、前にバイトしていた時のアホなマネージャーのこととか思い出したりして、ついでにそのマネージャーを裏に呼び出して文句を言って、バイトを首になりそうになったこととかも思い出したりした。そしてそろそろバイトもしなくちゃいけないな〜と思ったりもした。
斜め前に女子高生が3人座っていて、時々声を合わせて楽しそうに知らない歌を小さめの声で歌っていたりした。それぞれが自分の携帯電話をみながら。そして時々びっくりするくらいの大きな声で笑っていた。
小説がバイト先の話だったので、このマクドナルドの店員を少し見てみることにした。ざっと見たところ関係は良好そうだった。嫌味な先輩もいなさそうだった。バイトの女の子達はお客さんの目を見てニコッときちんと笑っていた。そういえば僕がコーヒーを注文した時もニコッとしていたような気がする。作った笑顔だったけど、嫌味がなかったので見ていても気分は悪くならなかった。

「高田さん。ゴミ捨て戻りました」
「栗山さんっ!店内はゆっくり歩いて下さいって私昨日も言いましたよね」
「すいません」
「あなたは自分のことしか考えてませんよね」
「・・・・・どういう意味ですか」
「与えられた仕事もこなせないのに、不満だけ一人前な顔するなってことですよ」
「ゴミ捨てもこなせないってことですか」
「馬鹿ねぇ。違うわよ」
「高田さん。昨日の売り上げが悪いからってバイトに八つ当たりするのは勘弁して下さいよ」
「高卒のくせに私に説教しないでよ」
「高卒がいるから、あんたの富士山よりも高いプライドが満たされてるくせに」
「富士山なんかと一緒にしないでよ!」
「・・・・・高田さんって生理が重い人ですね」
「栗山さんっ!あなた今日は休憩なしでラストまでノンストップでレジお願いします」

宮崎誉子 「コーヒー・チェリー」