Shin Yamagata

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忠告







Y村さんは「夢の話は書かないほうがいい。」と忠告してくれる。自分のこめかみの辺りを人差し指でトントントンと叩きながら「頭にクルからね。」と忠告してくれる。「私も半年くらい夢を書いていた時があるんです。」と。「でもね、、」と言いながらこめかみのあたりを人差し指でトントントンと叩く。
知らないおじさんが名刺をくれた。名刺の裏側に詩が書いてあったので、「おおっ」っていいながらその場で声を出してその詩を読んでみた。おじさんはうれしそうな顔をした。「だいたいですね、名刺を渡してもすぐに仕舞われるんですが、そうやって声に出して読んでくれたのは初めてです。」と言い、「あなたの声はとてもいい。」「詩の朗読会をするときはぜひ読んでもらいたい。」とニコニコしていた。
夫婦でコピーライターをしている人に会った。コピーライターというのが具体的にどういう仕事かわからなかったし、どうすればそんな仕事ができるようになるのか知りたくて聞いてみた。やたらと会議に出席しなければならないというような話から、フランスの話に変ってしまっていた。どういう経緯でフランスの話になってしまったのかもう忘れたけど、とにかくフランスの話で、フランス人は時間にルーズだとか、どんなにチャランポランな人に見えても、電車では老人に席を譲るとか、日本の女の人でフランスに行ってモテなかったとしたらちょっとやばいとか、全体的にフランスの話になってしまっていた。
フランスの話をしているときなのか、コピーライターの話をしているときなのか、そういう話をしていた時に知らないおじさんが横から会話に入ってきて、一緒になってまたしゃべっていた。フランスの話とコピーライターの話を主にしゃべっていたのは夫婦のうちの「婦」の方で、とにかく機関銃のようにしゃべりまくる楽しい人で、ひたすらうれしそうな表情でしゃべっているのだけど、その知らないおじさんが横から話に入ってくると少しつまらなそうな顔をしてあまりしゃべらなくなっていたりした、それはこっちの勝手な思い込みなのかも知れず、よくわからないけど、どうなんだろうかと、その人の表情をみるとやっぱり少しつまらなそうな感じでおじさんの話を聞いているようで、おじさんはおじさんで話すのが好きみたいで、どんどんしゃべり続けて、なかなか会話が途切れないというか、こちらも合いの手を入れにくいというか、ああ、これはむつかしいぞ、とか、どうしたものかね、なんて思っていると、横に座っているSずきさんがものすごいタイミングで的確な合いの手を入れて、会話をさらに弾ませたりしていて、おお、なんてやり手なんだと感心しながら、コピーライター婦の表情をチラチラと気にしながら、思い過ごしならいいのだけど、やっぱり少しつまらなそうな気がしないでもないなと思いつつ、この場を離脱する方法もそろそろ考えた方がいいのかもしれない、Sずきさんの合いの手にここはお任せして、なんて思ったところで、よいタイミングで合いの手も入れることのできない奴にそんなに簡単にこの場を離脱できるわけもないと考え直し、ほーとかはーとか話のちょっとした隙間になんとかそういう言葉を滑り込ませながら、この知らないおじさんとコピーライター婦(そういえば名前を聞くのを忘れていた)の見えない力学に関心を寄せていた。でもそれはやっぱりこっちの勝手な思い込みに過ぎないのかもしれない。