Shin Yamagata

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土曜日




その日は早く帰りたかった。朝起きた時間が早かったのに帰りはもう夜の11時をまわっていた。明日も早くに起きなければならないことはその日の初めから頭の片隅にずっとあった。夜の飲み会の席でも今日は早く帰りたいと思っていた。だから周りの人に今日は機嫌が悪いね、なんて言われていたのかもしれなかった。店から出ると外は雨が降っていた。傘を差している人も差してない人もいた。傘を差していない人は傘を持っていない人だった。
土曜日の夜だったからなのか、深夜の電車は比較的空いていて人がまばらに立っているような状態だった。池袋から出た電車は次の駅に到着する前に止まってしまっていた。人身事故だと車内放送があった。口から息を吐き出さないまま、深くため息をついた。他の乗客たちはため息をついている様子はなく、ただ座って目をつむったり、携帯電話を見たり、立っている人たちはそのままの姿勢で窓の外を見ているようだった。見た目には何も変わらないけど、ここに乗り合わせている人たちも皆自分の中で深くため息をついているのかもしれないとは思っていた。電話をかける人は思ったよりも少なく、「電車が止まっちゃってさー、」というあっけらかんとした若い男の声が静まりかえっている車内の中で響いていた。電話をしたいと思った。電話をしなければならないと思い、飲み会の席を二度抜け出して外にある公衆電話から電話をした相手には電話はつながっていなかった。
つづく