Shin Yamagata

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階段




夏になっていた。セミが鳴いている。木があればそのほぼ真下に影が落ちている。影の中に入り向こう側に見える木を眺めその下にある影を目指して歩く。アジサイの葉は萎れ、夾竹桃の花が咲き、撒かれた水によってアスファルトが湿っている。サイレンを鳴らしながら走る救急車が目の前を通り過ぎてから横断歩道を渡る。屋根の上にある十字架が白く輝き、その下を水鉄砲を持った小さな三人の男の子が走りまわり声を上げている。時折吹く風が汗を乾かし熱を奪う。派手な格好をしたおばさんと賑やかな音と冷たい空気がまとめて吐き出されたのはパチンコ屋の横を通り過ぎたときだった。駅の階段は回り込んできた光によって少し明るくなっている。切符が出てきたときに鳴る電子音が耳に飛び込み、改札を抜け階段を下りる。ホームから見えるビルとビルの間の細い隙間は青く、ビルは白い。扇子を煽ぐおばさんから古い家の箪笥の中の匂いが流れて、ホームに到着した電車の扉が開いた。