Shin Yamagata

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10月1日




何階建てかわからないけど、よく足を運んでいるビルから出たところで、少し困ったような顔をして電話をかけている黒いスーツを着た井上が肩と頬の間に電話を挟んで肩に掛けていた黒いカバンの中を覗こうとして覗かず辺りをきょろきょろ眺めている姿が目に入った。室内でしか見たことのない井上は外ではさらに小さく見えていて、それは全体的に黒い格好をしているからかもしれないけれど、井上は小さい人だった。小さい井上はまったくこちらに気付いていないから井上の前を手を振りながら横切ると、ハッと口を大きく開けて目で挨拶するような表情を見せたのは束の間、目はまた辺りをきょろきょろ眺めだし、立ち止まりもせずそのまますれ違って言葉は一切交わさず、目を合わせたのも一瞬で背中に井上の気配を感じつつ、井上はこちらの気配を背中で感じたりすることもなくまだきょろきょろと周りを眺め、周りはビルに取り囲まれている。