Shin Yamagata

お知らせ  zine  Twitter   Instagram


 

f:id:blepharisma:20190119114536j:plain
8月14日
久しぶりに晴れた。歩いていると普段は聞こえない子供の声が家の中から聞こえてくる。車もあちこちにとまっている。県外へ出ていた人たちが子供を連れて帰ってきている。車を邪魔だと思うこともあるけど、うまくいけばおもしろくなるかもしれないと思い、画面に入れながら撮影していく。家の前に出ていた小さな男の子に「あ、カメラマン」と指をさされる。一緒にいた母親がニコッとこちらに頭を下げる。このあたりの年寄りはカメラを持ったわたしを見ると、たいてい「測量にきたんか?」と言う。普段、写真を撮る人より測量をしている人の方を多く見かけるのだろう。家の脇の細い階段を上っていく。春は通ることができた道が、草に覆われ先へ進むことができない。マムシが怖くて草の中へは入っていけない。お盆が近づくとどこへいっても草を刈っているけど、こうやって草が刈られない道も多くある。遠回りになる車の通る道へ出るしかなくなるのだけど、そうすると風景が単調になる。

f:id:blepharisma:20190117135714j:plain
12月7日
ミニストップの店先に置かれたベンチに座って寒い中ソフトクリームを食べていると、道路を挟んだ向かいのビルの前にとまったでかい車からベロア生地のピンクのスーツに身を包んだおっさんが降りてきた。ピンクの長いマフラーも首に垂らしている。キワモノといった感じではなく、どちらかと言えば極道という感じ。いったい何者なのか。車が止まったのは1時間3000円飲み放題歌い放題のカラオケスナックの前だ。その店から若くてきれいな女の人が1人出てきて、車から降りた若い女の2人のうちの1人と路上で抱き合った。何か言葉を交わして、店から出た女は道路を渡り、わたしの脇を通ってミニストップへ入っていく。そのあいだにピンクのおっさんと若い女2人はカラオケスナックの扉の向こうに消えていた。ミニストップから出てきた女はわたしとは違う種類のソフトクリームを手に持ち、道を横断する。

f:id:blepharisma:20190113133304j:plain
7月27日
アレックスと付き合っている女は他の二人が酒を飲んでいてもオレンジジュースを飲んでいた。他の二人の女に比べれば、アレックスと付き合っている女は陽に焼けていた。褐色の肌に真っ赤な口紅。アレックスと付き合っている女はナイフで肉を切り、脂にまみれた唇の隙間から少しだけ舌を出す。「しつこいのはダメなんだって、ってテレビで言ってたよ」と笑う色白の女に一瞥もくれず、肉を咀嚼しながら長い髪を搔き上げる。アレックスと付き合っている女は肉の横に添えられた茶色いペーストが何かわからない。口に含んでもぼやけたような味に首を傾げる。三人は、久しぶり、とこの店で顔を合わせてからずっと男の話をしていた。手荷物を預かっても料理の説明をしても、何の反応も返さず話し続ける女たちに対して、給仕は常に笑顔を絶やさなかった。グラスの

f:id:blepharisma:20190111130724j:plain
9月10日
パソコンの画面が急に真っ暗になる、という症状が出始めて10日ほど経つ。今日はひどい。もうこれは使えない。パソコンが使えなくなるのは支障がありすぎる。だから憂鬱になる。包丁が折れてもこれほど憂鬱にはならない。お皿が割れても座布団が破れても換気扇が回らなくなってもこれほど憂鬱にはならない。ガスが出なくなってもカセットコンロがある。パソコンが壊れるともうどうしようもない。機械に気持ちを振り回されていると思うとさらに憂鬱になる。機械に生活の一部を握られていることがどうしようもなく間違っていると思えてくる。じゃあ縄文時代の生活にもどれるのか? なんてことを言ってくる人がいる。そう言う人、嫌い。

f:id:blepharisma:20190109092257j:plain
3月9日
外に出ると春のにおいがした。何かの花のにおいと雨のにおいと、他は何かわからない。でもこれは春のにおいだった。土のにおいはあるかもしれない。川は近くにないから川のにおいはないと思う。下水ならそこらにある。もうやんだと思っていた雨がわずかに降っている。傘はささなくてもいい。坂を下っていくと、暗渠になった川があった。忘れていた。この地面の下には今も川が流れていた。かつての川は緑道になって、数メートルおきに植えられたコブシのつぼみが膨らみ、ところどころ白い花びらがつき出たりしている。夜でもはっきりと見える。コブシの

f:id:blepharisma:20190107144554j:plain
7月26日
なすびと油揚げがある。切って炒め、だし汁と醤油とみりんと砂糖を加え少し煮る。そうめんを茹ではじめる。茹であがる直前に電話がなる。無視。そうめんを流水へ。水がお湯のようだから氷を加えて冷やす。また電話がなる。無視。

f:id:blepharisma:20190105095304j:plain
7月20日
手が離せないのにお願いされた。手が離せなくはないけど、一度手を離すと、また手をつけるまでが面倒だから、はい、と返事をしてその場から一歩も動かず、仕事を続けていた。頼んだ相手も忙しそうに動き回っている。頼まれたことはものすごく急ぎの用事ではないことはなんとなくわかっていた。もう少し様子を見てもしもの場合は手を離してあっちにいくしかないと思っていた。しばらくすると頼んだ相手がその用事を自分でやりはじめた。やっぱりそうなるか、と思いながらその様子を眺めた。またしばらくすると、お願いされた。別の要件だ。そのときもちょうど手を離せなかった。だからもう一度同じ手でいってみようと、はい、と返事をして何もしなかった。ときどき顔を上げて相手の様子をうかがう。しばらくして、