Shin Yamagata

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かばん




電車はもう空いていた。目の前に座った女はひざの上にかばんを乗せていた。そのかばんの他にもう一つ小さいかばんを持っていた。その小さいかばんはひざの上のかばんの上に乗っている。私の隣に座っている女もひざの上にかばんを乗せていて、そのかばんの他にもう一つ小さいかばんを持っていた。斜め前に座っている女も同じように二つかばんを持っていた。かばんは二つより一つの方がいいだろうと思っていたし、小さいかばんの中に何が入っているのかわからなかった。その小さいかばんの中身はある一部の女だけが知っていることなのかもしれないと思ったりしていた。蒸し暑かった。目の前に座っていた女が降りた後にスーツを着た若いサラリーマン風の男が黒く平べったいかばんを一つだけひざの上に乗せてそこへ座った。男の革靴はピカピカに光っていた。私の履いている革靴は汚れていた。着ているスーツもその若い男のスーツの方がきれいだった。その若い男と降りる駅が同じで、私は男に続いて電車を降り、男の後ろにくっ付いて階段を登っていた。男はカードをかざして改札を通り抜け左へ曲がった。私は切符を改札口に突っ込み右へと曲がった。曲がった先にある階段の手前に立ち止まっている女が携帯電話を見ながらニヤニヤしているのを見て階段を下り家へと向かうところだった。月は見えなかった。